女剣士
歩き始めて数十分、何度か後ろから後をつける気配はあるが
それがターゲットではないことは分かっていた。
奴は頭上から来る。
それだけがターゲットの特定の判断基準だ。
と、思考をめぐらせていたその時!
後ろから殺気を感じた登は大きく前へ回避した。
そして狙ってきた敵を確認すべく、後ろを振り返りポケットから共和から護身用としてもらったコルト・パイソンを構えた。
敵はまだ年が十もいってないであろう少年だ。
その体格には似合わない大型のナイフをこちらに向けて警戒している。
しかし、その体は小刻みに震えていた。
が、その視線は登を見ておらず焦点が合っていないようだ。
「に、日本刀・・・」
そうつぶやいた少年は背中から勢い良く血を噴出しその場に倒れた。
その瞬間ただならぬ気配を感じた登はとっさに振り向こうとしたが、首筋から生温かい液体が流れているのに気づいた。
「誰かと思えばあなたじゃない。そんな格好で何してるの?滑稽ね」
冷静な声が登の耳を突き刺す。
「日本刀パーカー野朗だな。少し話がしたい。とりあえずその物騒な日本刀をしまってくれないか?」
登は控えな口調で喋りかけたが、なんだかんだで喋るのは初めての相手であるし
ましてやこちらは日本刀を背後から向けられている状態。声が震える。
「私の愛刀を下ろす前に、私は日本刀パーカー野朗じゃない
今は切っ先を少し首に当てただけだけどへんな真似したらこのまま突き刺すわよ」
そう脅された登であったが口調や声色から判断した結果
日本刀パーカー野朗が女だということに驚きを隠せなかった。
そして、ゆっくりと首筋から垂れた血液は登の背中を滴る。
「まぁ、待てよちょっと話をしないか?」
「人に頼みごとをするときは、名前を名乗るのが筋よ
あなたの名前は?ハイエナさん」
やはり、俺がハイエナということは知っていたか
そして登はゆっくりと口を開いた。
「狩谷 登だ」
「初めて名前を知ったわハイエナ改め登くん」
「次はお前の番だ」
「あら失礼、私は古屋 美咲よろしくね」
「俺も始めて名前を知った」
お互いの名前をさらしあう事で登の心に余裕が生まれた。
「で、話ってのは何なのよ」
安心した心に古屋 美咲が核心をついてきた。
「あぁ、そうだったな。ここじゃなんだから別の場所に行こうぜ」
「構わないわ」
こうして、二人は武器を下ろしスラム街の奥へと向かった。