日本刀パーカー野郎
その日の深夜、登は岐阜の柳ヶ瀬繁華街金華橋通りにいた。
深夜だというのにこの賑わいは何だというのだ。街に広がる電灯の嵐はもはや昼間となんら変わりのない光度をたもち
ネオン街に群がる群衆がそれを彩る。
しかし、この光景は登は嫌いだ。なぜなら自分がハイエナだったころ、何度この賑わいを恨み
略奪に走っていたか分からないからだ。野球選手だったら通算何千回と話題になるが、登の場合
ただの殺人なので、誰にも誉められることなくただすさまれ幼少期を過ごしてきたのである。
そんな過去は首を横に激しく振って拭い去り、金華橋通りの光から外れ
繁華街の裏道に足を進めた。登が向かう先はスラム街
金華橋通りとは大きくかけ離れた別世界であるが、どちにしろ糞の上を歩いている気分には変わりはない。
ここは、過去の登のように犯罪を犯しながらなんとか生きるすべを見つけながら暮らす
ギャングチルドレンと呼ばれる少年たちが暮らす、いわば社会のゴミ溜めだ。
「ここに来るのも二週間ぶりか」
そうたいして時間は進んでないが登にしたらまるで何年か前の出来事のように感じられる。
そして、スラム街につくなり登は共和にもらった茶封筒から何枚かの紙を引き抜いた。
それは、手配書の束だ。手配書にはまだ年端もいかない子供たちの顔写真や罪状などが事細かに記されていた。
そのなかで、共和に言われたとおり猟奇的な犯罪を犯している物を探し出していた。
「なんで、よりによって猟奇的な物から選別するんだよ。」
ため息をつきながら半ば流し目で手配書の束をパラパラとめくっていると
ある一枚の手配書に目が留まった。
「次々と、泥酔者を狙う人切り。被害者の遺体は日本刀のような刃物でつけられた傷が致命傷となっていた。
顔写真は未入手。目撃証言、小柄・赤いパーカー・日本刀」
手配書には顔写真未入手と記されていたが、登は指名手配犯の顔を知っていた。
なぜなら、何度も登が狙ったターゲットを横取りされていたからだ。
そいつは、いつも返り血を浴びたパーカーに日本刀を携えながら頭上から急降下してくる。
名前や性別は分からないが明確な登のライバル的存在になっていた。
「あの日本刀パーカー野朗か。とりあえず、引き抜く相手は決まったわ」
登はその場で作業着から事前に持ってきたスーツに着替え、わざとふらふら歩きながらスラム街の裏道をさらに歩いた。
無論、日本刀パーカー野朗をおびき出すためだ。