共和建設 従業員 狩谷登!
ビルの前に立ち登はひとまず深呼吸をした。
そしてコンクリートむき出しの階段を上り、二階のドアにたどり着いた。
そこで、深呼吸をもう一度しようと深く息を吸い込んだ瞬間
「まってたぜ!!坊主!なかなか不憫なやつだ!さぁなかへ入れ!」
いきなり、大柄で黒いバンダナを巻き毛むくじゃらの裸に白衣という
いかにも、狂人あるいは変人といった姿の大男が現れた。
連れ去られるように中へ引っ張られた登は、黒い高級そうなソファの端に半ば投げ出されるように
案内され、静かに腰を下ろした。
「ようこそ共和建設へ!名前は、狩谷登で良いよな?」
「なぜ俺の名前を?」
「そりゃおめぇ、お前の両親はどんな仕事をしているのかしってたか?」
「えっと、確か建設会社に勤めて・・・」
自分で口にした瞬間登はハッとした。
そう、いま自分がいる場所は駅裏の建設会社。
それもずいぶん曰くつきな会社である。
「おっ、察しが良いようだな!そうともよ!お前の両親は俺の会社の元従業員だ!」
うすうす感ずいてはいたものの、いざ事実をさらりと口に出されると世界にったた一人
投げ出されたような不思議な気持ちに陥った。
「俺の名前は菱形共和!ここの会社の社長だ!」
もはや、ここまでくるとこの下品の大男が社長というのはなんら不思議ではなく
むしろ、様になっているような感じがした。
「そこでだ、お前には両親がいない、今までどうやって生き延びてきたかは知らんがどうせろくな生き方なんてできてなかったはずだ。そうだろ?」
共和の言うとおり、事件から10年間
登は窃盗・強盗を繰り返し生き延びてきたわけだ。
「まぁ、察しのとおりですけど・・・」
「やっぱりな、その腐った目とぼろぼろの服を見ればすぐにわかる。大方、人から物パチるハイエナみてぇな生き方してたんだろうな。」
「ハイエナ?なぜそれを?」
「あ?ここ10年間繁華街の路地裏にハイエナがすんでるって専らの噂だったぜ。つまり、お前はちょっとした有名人ってわけだ。」
やはり、察しというか勘が鋭いこのオヤジは路地裏のハイエナのことを知っていた。
登は窃盗・強盗を繰り返すたびにその腕は上達し、まさに手癖の悪さは天下一級品となっていた。
ついた異名は、路地裏のハイエナ
まさしく、登の生き方にぴったりな異名である。
「はい、路地裏のハイエナとはまさしく俺のことですが、俺はそんな自分の生き方にどこか憤りを感じていました。
その時に事件直後に発見されたダイイングメッセージをふと思い出し、ここにきたわけです。」
「ほう、それはいい決心だな!」
共和は高らかに笑い、葉巻に火をつけた。
「そこでだ、お前うちで働け!」
そう言い放つと同時に煙を吐き、ニヤッと笑って見せた。
その笑顔とは裏腹に、登の気持ちは沈んでいた。
こんな曰くつきのところで何されるかわかったもんじゃない。
だが、行く当てがないのも事実、ましてやあの生活になど二度と戻りたくはない。
そこで仕方なく、ここで働く決心を登は決めた。
「行く当てもないんでよろしくお願いします。」
その答えを待っていたかのように共和はサッと手を差し伸べた。
「じゃ、今日からよろしく頼むぞハイエナ小僧!」
この握手を境に登の運命が大きく揺れた。