美咲、採用決定
「おいおい…なんだってこいつなんだよ登」
珍しく共和の顔が引きつり、おもむろに後ずさりして行く
「あら?建設会社のお仕事は女のあたしには不向きかしら?」
美咲は後ずさりする共和に対して食い入るように顔を覗き込んだ。
「いや、女だからとかじゃねぇよ登。こいつのこと知ってんのか?」
「知らねーよ。知ってることなんてこいつが日本刀振り回す殺人鬼ってことくらいしか記憶にねーな」
「死人からも物をかっぱぐハイエナに殺人鬼なんて随分な言われようね。夕飯はハイエナの三枚おろしかしら?」
言い合う二人に割り込むように、共和がなだめる
「まぁまぁ、落ち着けよ?だがな、こいつだけは許せねぇんだよ」
「共和のおっさんがそんな事言うだなんて、お前なんかしたのか?」
「失礼ね。こんな小汚いおっさん知らないわよ」
「名前は…美咲って言ったか?こいつだけは良く覚えとくんだ。世の中ってのはな、やった方は覚えてなくてもやられた方はいつまでも覚えてるもんなんだぜ」
共和が少し強めにだが、落ち着いて言った。
「どーゆー意味よ?あたし本当に知らないわ!」
「なら、教えてやろう。登も聞いておけ。
俺が楽しく一人で飲屋街で呑んでたらな、ついつい飲み過ぎちまってよ。なにを思ったのかスラム街の方に歩き始めたんだ。そしたら、可愛い子がいるなーって思ってナンパしたんだよ!その、三秒後にはこのクソアマ、日本刀を腹のあたりにぶっさして来やがってな!普通にそんなことされたら誰だっていてぇだろ??んで、俺が気絶してる間に財布ごと盗まれちまってよ!金はいいんだ。だがな、お気に入りのキャバ嬢のメアドが書いてある名刺まで持って来やがって!くそったれ!人から物を奪うなんてどういう神経してんだよ!」
共和の話を一通り聞いたところで登が口を開く。
「おっさん…そりゃ、あんたが悪いわ…」
と、若干蔑むような目で言った。
「おいおいどーしてだ?俺は被害者だぜ?」
「酔った勢いにしろ、年端もいかねぇ娘にナンパする時点でおかしいだろ。しかも、怒ってる理由がキャバ嬢だぜ?そんな暇があったら仕事しろよクソオヤジ!」
「いいや、許せねぇんだ!!俺はあの娘に本気だったんだよ!」
今度は、登と共和の言い合いに美咲が口を挟んだ。
「おっさん…その名刺ってこれの事?」
美咲はパーカーの裾から一枚の名刺を取り出してみせた。
「おぉ!ありがてぇ!!こいつだよ!
お前意外といい奴だな!採用決定!」
名刺を貰った途端に上機嫌になる共和に登は面食らってしまった。
「おっさん…喜んでんとこ悪りぃんだけど二つ質問があるんだけど」
「お?なんだ??」
「一つ目はなんで腹を日本刀でぶっ刺されていたいで済むんだ?そして、もう一つ、おっさんの採用基準ってなんなんだよ!!」
登の質問に共和は、考える素振りをを少しした後に答えた。
「とりあえず二つ目の質問からだな!そいつは簡単だ!俺が気に入るか気に入らないかの話だ!!そして、一つ目は俺の骨が鉄でできてるからに決まってんじゃねぇーか!」
たからかと、笑う共和とは裏腹に登と美咲は
共和に対してそれぞれべつの疑問を抱いていた。