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男のロマン

 俺の目の前にはさっき怒鳴ってやった少女がいる。

 怒った時は一瞬だけ驚いたように目に光が戻ったが、また直ぐに虚ろな表情に戻ってしまった。

 耳をすませると少女がボソボソと言葉を呟いているのが解った。


 「……殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ……」

 「…………」


 驚かせても効果はないことがはっきりした。


 ……それにしてもさっきの記憶は何だったんだ?目の前の少女の記憶だとしたら最後のところが合わない。

 もしかするとあの最後の声は大鎌を造った武器職人の声?そうだとしたら「救ってくれ」という言葉も頷ける。

 だが救おうとしても呪いの解き方なんぞ俺は知らない。光属性の魔法でなんとかしようと思えば出来るかもしれないが成功する自信がない。

 俺は方法を思い付くために周りを観察していると、周囲に漂っていた大量の人魂と少女の足にしがみつく何本もの黒い腕に気がついた。

 一応種族を確認しておこう。


 種族 呪精霊

 レベル 49


 種族 悪霊魂

 レベル 1~35


 種族 闇へと誘う者(腕)

 レベル 35


 ……コイツ、さり気なくレベル最大だった。

 やっぱりこの少女は武器に宿った精霊か。

 悪霊魂は多分今までに殺された生き物達の行き場のなくなった魂。レベルがまちまちだがほっといてもなんとかなるだろう。合体とかしたら困るが。

 問題はこの闇へと誘う者(腕)だな。(腕)って何なんだよ。本体がいんのか?

 名前的に見てこの黒い腕が呪いの元凶っぽいな。

 ならコイツさえなんとかしてしまえば事件解決ってことだな。


 「……殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ……」

 「……殺せ殺せって馬鹿の一つ覚えみたいに言いやがってまったく……おら、とっとと出て来い!」


 呪精霊に話は通じない様なので足にしがみついている闇へと誘う者(腕)を無理矢理掴んでひっぺ剥がした。

 腕が離れると同時に呪精霊は糸が切れた人形のように意識を失って倒れる。手を掴んでこちらに引き寄せる。

 それと同時に悪霊魂が騒ぎ出して呪精霊に襲いかかろうとしたので光を出して追い払う。

 するとズブズブと音を立てて闇の中から首が、身体が、脚が這いずり出て来る。

 見た目はどこかの聖書に描かれていそうな悪魔そのものといったような姿だ。三本角の山羊の頭に成人男性よりも若干筋肉質な身体に悪魔らしい羽と尻尾が生えている。さらに背中にはさっきまで闇へと誘う者(腕)と表示されていた黒い腕が大量に生えていた。

 そいつは全身から黒い波動を垂れ流しながらこちらににじり寄ってくる。


 「……骨兵ヨ……ソノ贄ヲ……コチラニ……渡セ……。貴様ニ……ソノ贄ハ……救エヌ……疾ク……引キ返スガ……ヨイ……」


 途切れ途切れに、だがハッキリと響く機械を擦り合わせたような音の高さの声で語りかける。

 同時に頭の中に表示されるウィンドウ。


 種族 闇へと誘う者

 レベル 40


 ……いやいや。なんでレベルが上がってるんだよ?あれか、「腕と本体は別です~」ってやつか?面倒臭ッ!


 「……悪いがコイツは俺が貰うぞ。頼まれもされているからな」


 闇へと誘う者が放つ波動が一気に濃さを増す。それは周りの悪霊魂が触れた傍から消滅する程の濃度だ。


 「……愚カナ……。ナラバ……死ネ……!」


 闇へと誘う者が真っ赤な眼を爛々と輝かせて俺を睨む。俺は反射的に横に跳ねる。

 するとさっきまで俺が立っていた場所に闇で作られた漆黒の剣が突き刺さった。

 そっちに気が向いたのも束の間。直ぐに俺は走り出す。俺が走った後を次々と何本もの剣が悪霊魂を巻き込んで地面に突き刺さる。


 「……ク、ク、ク……。贄ヲ抱エタ状態デ……何時マデ持ツカ……ナ……?」

 「チィッ!」


 俺が休む暇もなく避けていると、腕に抱えた精霊が動き出した。

 精霊は周りを見て状況を理解したのか、理性が戻った瞳で俺を見る。


 「……離して。このままじゃ……私が足手まといになる」

 「断る。腕なんて使わなくてもあの悪魔モドキはぶっ飛ばせる」


 精霊は俺の言葉に驚愕の色を隠せなかった。


 「……どうして、私を?」

 「頼まれたのが七割、個人的にあの悪魔モドキが気に入らないのが二割、迷惑かけられたらのが一割だ。理由はそんなとこ。……そろそろ終わらせるか」

 「……ホォ……ソノヨウナ状況デ……ドウヤル……ツモリダ……?」


 闇へと誘う者の問いかけに俺はにこやかな笑顔(想像。表情筋とかないし)で告げる。


 「こうする。くらえっ、『目からビーム(ビィィィンム)』!」

 「……ナァ……!?ガァァアァアァァァ……!」


 不意打ち気味に撃ち出された男のロマン(目からビーム)が闇へと誘う者を焼く。抱えている精霊の目を潰さないように威力を抑えたので消滅はしない。

 だが、だがだ!俺はクッソ眩しい!目が、目がぁぁ(感覚だけ。えげつのない眩しさだが普通に周りは見える。初めてこの身体を恨めしく思った)!

 悪魔モドキが灰になるまで、腕に精霊を抱えているので目を押さえて転がることも出来ないのでひたすらに我慢していた。

 ……くっ、ロマン攻撃の完成は遠い!

 何時の時代だって目からビームは男のロマンだと思います。

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