謎の巨獣(2)
グズリー・バーサーカーがサイズを大きく横凪に振るう。それを俺はしゃがんで、カグヤは一歩後ろに下がることで回避する。
「……兎に角。武器を手放せれば呪いは解除される筈だ。あの武器に奇妙な力がなければの話だが」
「オーケー。なら俺が囮になってあいつを引きつけるからカグヤはその間に腕を斬ってくれ」
「了解した」
俺とカグヤは素早く作戦を練って行動を開始する。
俺が前に進んで、次の攻撃を放つ為にサイズを振りかぶるグズリー・バーサーカーに向けて『閃光』を放つ。
「コ・ロ・ス!コ・ロ・ス!」
しかし、俺が放った光はグズリー・バーサーカーの身体を焼くことはなかった。
なぜなら奴が振り落としたサイズから黒い刃が飛び出て『閃光』を真っ二つに切り裂いたからだ。
「ゲッ、マジかよ!?」
「『闇刃』、闇属性の魔法だ。あの威力のものをくらえば一溜まりもないぞ、気をつけろ!」
気をつけろと言われてもだな……。
俺のメインウエポンの『閃光』が効かないんじゃ手出し出来ないな。
『硬化』もあの『闇刃』の威力の前にはあんまり効果がなさそうだしな。
唯一の救いは相手の攻撃が全て直接的な斬撃しかやってこないこと。恐らく知能はそれほど高くはない。
……そうか。単調な攻撃しかやってこないなら逆に利用すれば良いのか。
「シ・ネ!」
グズリー・バーサーカーが再び『闇刃』を発動して振り落とす。
俺は素早く右に跳んですんでのところで回避する。『闇刃』が若干掠ったがこの際無視だ。ただの掠り傷だしな。
振り落とされたサイズは俺の予想通りさっきまで俺が立っていたところの地面を抉りながら深々と突き刺さる。そして少しの時間だが、奴はサイズを抜く為に動きが止まる。
その隙を逃さずカグヤが刀の柄に手をかける。
「『一閃』!」
カグヤが刀を収める音が鳴る。それと同時にグズリー・バーサーカーのサイズを持っていた左腕が根本から斬り飛ばされる。
斬り飛ばされた左腕はサイズと共に空中を回転し、サイズは地面に突き刺さり、腕は落ちた後骨だけを残して腐る。
グズリー・バーサーカー本体は腕が斬られて直ぐに目から光が失せて、腐り始めた。辺りに言いようがない臭いが立ち込める。
「……殺ったか?」
「字が物騒だなオイ」
鼻を塞ぎながら呟くカグヤの台詞に突っ込みを入れながら俺はサイズに近づく。
「……取りあえず回収っと「馬鹿ッ!それにまだ触るな!」……え?……うおッ!?」
「シンゲツ!?」
サイズに指先が触れた瞬間に俺を黒い霧が取り囲み、俺を意識は消えた。
俺の頭に流れるのは全く知らない何かの記憶。
むかしむかし。
とある村に一人の武器職人の男がが住んでいた。
男はこの村で唯一で武器職人であり、男が造り出す武器には精霊が宿るほどの腕前であった。
男は精霊への感謝の気持ちを常に忘れず、造り出した武器を自分の子供のように接し、信頼できる人物にのみ手渡した。
ある日、男の元にとある国の国王が訪れた。
王は周りの国との戦争の為に男の造った武器を求めていた。
しかし男は「自分の子供にそのような事はさせたくない」と王の申し出を断った。
王は怒り、男を捕まえて牢獄に閉じ込めた。
そして、その時に男が製造した大鎌を使って兵士に男の首を跳ねさせた。
男は処刑される直前に「ああ……我が子よ。お前に父殺しの罪を与えることになってすまない」と言った。
男が処刑された次の日に男を処刑した兵士が突然大鎌を振り回して王の首を跳ねた。
別の兵士が止めに入った時、兵士は気が狂ったかのように「殺す殺す殺す殺す殺す」と喋り続けて周りの兵士達の首を跳ねた。
兵士が正気を取り戻した時には既に王国の人々が全員首を跳ねられた後だった。
兵士は「許してくれ許してくれ許してくれ許してくれ」と叫びながら大鎌で首を掻き斬って自害し、そこには武器以外には誰もいなくなった。
大鎌に宿りし精霊は数百年経って尚自らの罪と憎しみに苦しむ。
そして何時からか精霊は壊れる。
周りの生命全てに憎悪を抱き、己を使う者を操り周りの生命を殺戮する。
何百、何千の時が過ぎようとも、精霊を打つ怨念の雨は止まない。
誰か、誰か、誰かこの子の手を取ってほしい。
誰か、誰か、誰かこの子を、永遠の苦しみから解き放ってくれ__
ようやく意識が戻って前を見ると、黒い少女が俺に囁いていた。
その目に理性の光はなく、虚ろに呟き続ける。
「殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ……」
「うるせぇ!」
取りあえずキレた俺は悪くない。