女侍とスケルトン
刀を返した後に俺達は落ち着いて話し合えるようにと森の入り口からそれなりに奥に進んだ場所にあるちょっとした休憩所のような広さがあるところまで移動した。
そして今、ちょうど良い大きさの切り株に腰掛ける俺の目の前にはorzのポーズ、ジャパニーズ土下座をしている女性がいる。
カグヤ・クロサカと名乗った女性はギルドから依頼を受けてこの森に来ていたのだが、そこでブツブ
ツと何かを呟いている俺を見つけてあのような行動に出たらしい。
まぁ俺が下手に挑発したからああなったんだろうけど。
「あ~、もう謝らなくてもいいって。あんなところでブツブツ呟いてた俺も悪いんだしさ」
「いや!だとしても話しを深く聞かずに斬りつけたのは私だ。謝罪しなければ私の気がすまない!」
さっきからずっとこの調子だ。
なんとかして話題を変えないと物凄く気まずい。
これって通りすがりの人が見たらボロ布を纏った白骨死体の前で地面に頭をつけているなにか関わりたくない頭の可笑しい人としか移らないな。
「も、もう謝罪とか良いからさ。そのかわりにギルドについて知ってる限りで良いから教えてくれないか?」
「……むぅ。そこまで言うのなら………そういえば貴方の名前を訊いていませんでした。名前は何と言うのですか?」
おっ!話題が変わった。
しかし名前か~。ブツブツ呟いてた原因だからなぁ。
その場で取り繕うとは出来なさそうだが良い名前が直ぐに思いつかないしな……。
俺は考えながら空をみる。空には澄み渡るような青空が広がっていた。
……青空……空……ソラ……ソーラ……ソラー……ソウラ……うーん。何かが違う。
青空の反対は夜空か?そういえば昨日は月が綺麗な夜だったな。
……月……夜空……月夜……ツキヨ……ツクヨ……ツクヨミ……まずい。神様の名前になってしまった。
……月……三日月……満月……新月……シンゲツ……シンゲツか……もうこれで良いや……。
「シンゲツ……」
「……?」
「俺の名だ。俺はシンゲツ。スケルトンのシンゲツだ」
俺は考えることを止めた。
……だってネーミングセンス無いのに名前なんて考えられないもん!
解るか!?俺はRPGゲームにおいて最大の難関は名前を決めるところだと思っている!
一向に名前が決められずに時間だけが過ぎていく……正直あんな虚しいことは二度と味わいたくない!
「そうか!ではシンゲツ殿、早速ギルドについて簡単な説明をします」
「呼び捨てで構わないぞ」
「では私のことも呼び捨てで構わないぞ。正直敬称で呼ばれるのはむず痒い」
そう言いながらカグヤはギルドの説明を始めた。
いつものように適当に纏めると、
ギルドとは冒険者の登録をし、冒険者に依頼を提供する組織である。
冒険者はFランクから始まり、E→D→C→B→A→S→SS→SSSランクまである。
余談だがカグヤの祖父であるジュウゾウ・クロサカはこの世界で唯一剣を極めし称号である『剣聖』を得たSSSランク冒険者だったらしい。カグヤが誇らしげに語ってた。
ギルドは実力主義であり、本当はランクは依頼を受けなくても目立つような成果(高レベル・ランクの魔物を討伐する等)をあげれば勝手にあがる。
魔物をある程度理性的で実力があれば冒険者になれる。大体はオークやゴブリン、ドラグーンとかでスケルトンは珍しいらしい。アンデット種は総じて知能が低い(腐ってるし、本能に忠実だから)奴が大半だからということが理由とのこと。
手続きについては普通に受付に行って証明カードをもらえば良いだけらしい。
「ーーーーところでこんな質問をしてきたということはシンゲツはギルドに入るのか?」
「んあ~。まぁそんな感じだな。一応進化してからだが」
喋っている途中でふと思ったことをカグヤに訊ねた。
「そういやカグヤは何の依頼を受けてここまで来たんだ?」
「んっ?私が受けたのはこれだ」
そう言いながらカグヤは懐から一枚の紙を取り出して俺に見せる。そこにはこんなことが書かれていた。
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Dランク依頼
“森に住まう謎の巨獣!”
討伐依頼
先日我が村の近くにある『聖霊の森』で薬草を狩っていた村人が遠くで動く謎の影を発見した。
大きさは五メートルは越えていたと言う。これより後に何度も目撃があった為、討伐依頼を出すことにした。
グズリーの群れと共に現れることが多いようなので注意されたし。
目的:『聖霊の森』奥地にて目撃された謎の巨獣を討伐する。
報酬:依頼達成で金貨二枚。追加でグズリーの群れを討伐で銀貨十枚。
期限:無し。
依頼人:セーレ村村長。
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「……結構高額だな。グズリーだけでも銀貨十枚か」
「恐らくこの謎の巨獣の実力が全くの未知数だからだろう」
グズリーはこの森でよく出るらしい熊そっくりの魔物だ。なんで知っているかというとここに来るまでに一度出会って『竜眼の指輪』で調べたからだ。
ちなみにそいつはカグヤの刀の錆になりました。
「……ふむ。噂をすればなんとやらか?」
突然立ち上がって構えるカグヤにつられて俺も立ち上がり、周囲を見ると二メートル程の熊__噂のグズリーさんが十頭以上の数で取り囲んでました。
気配を気取らせないとは……さすが野生の生き物だ。羨ましい。
「シンゲツ。意外と早めに進化出来そうだな?」
「ソウデスネー」
グズリーは羆っぽい見た目です。
熊カレーって美味しいのかな?