転生先にて
目を覚ますとそこは死者達がおどろおどろしく闊歩する墓場ではなく、日当たりのいい森の入り口の木の根本だった。
どうでもいいが俺の見た目は今現在スケルトン__つまりは人型の骨、人骨標本である。
ボロ布のようなものを纏って座り込んでいるので傍目から見れば旅人の哀れな成れの果てにしか見えない。
その証拠に何人か人が通りかかるが、驚かせまいと無言で座り込む俺を見ると九割程の人々が手を合わせてくれる。
中には花や食べ物を備えてくれる人もいて、思わず涙を流しそうに(涙腺はないが)なった。
そんな光景を何度か繰り返していると脳内(脳はないが)に声が響いてきた。転生する前に対話していた神様の少女の声だ。
『……あっ、通じた。どうやら転生は成功したみたいだね』
これは所轄テレパシーと呼ばれる類のものだろうか。
俺がどう返せばいいのか考えていると少女はさらに言葉を続ける。
『頭で思ったことがそのままリアルタイムで相手に送られるようになっているから口に出さなくてもいいよ』
なるほど。
まるでチャットみたいだと思いながら俺は少女に対する返答を考えた。
『ところでここはどこなんだ?』
『ここはファンタジーな世界だよ。ここには魔法も魔物もあるし、冒険者、果てには魔王や勇者までいるんだ』
……ふむ。勇者に魔王か。
まだ遭うことはないとは思うが、もしこれからどんどん強くなっていけばいずれ脅威になる存在だな……あっ、通りすがりの人、祈ってくれてありがとう。
『……どんな状況なの?この光景』
『俺を哀れなホトケさんだと勘違いした人達がお祈りしてくれている状況です』
『…………ご、ご愁傷様?』
勝手に殺すな。
そんなやりとりをしばらく続けているといつの間にか夜になったようで、人通りはすっかりなくなった。
俺はラッキーと思いながら立ち上がったが、忘れていた。
ここは俺のいた平和ボケした世界などではなく、俺のような魔物が彷徨くファンタジーワールドだということをだ。
結論を言えば囲まれました。
魔物としては定番中の定番__スライスの大群だ。但し目の前のスライス共はよく知るような青色の玉葱ではなく緑色のプルプルボディに核がうっすらと透けて見える姿だ。
「……いやいやいや。俺の新入パーティーにしてはさすがに集まりすぎだろ!?」
『……ボケてる時点で結構余裕だよね?』
「現実逃避だよ!ほっとけ!」
俺は神様(笑『神様(笑)って言うなぁぁ!』と喋りながら周りの状況を確認する。
スライスの数は十三。俺を中心にして円形に取り囲み、抜け出せるような隙はない。
つまりこいつ等は偶然に集まったのではなく、元々群れで狩りをするということが解る。
……勝てるか?俺のこの未だ戦い方が今一よく解らないスケルトンの身体で。
『大丈夫大丈夫~。転生者とそこら辺の魔物の違いを見せてやれ~』
「お前この状況楽しんでないか!?神様(笑)!」
『神様(笑)って言うな!来たよっ!』
騒いでいる俺を見て好機と思ったのかスライスの一匹が体当たりをしてくる。
焦った俺は足下に供えられていたおにぎりをひっつかんで無我夢中で投擲した。
次の瞬間。炸裂した。スライスが。
「…………え゛っ?」
『だから大丈夫って言ったのに。ステータスを上昇させたの忘れてない?』
忘れてはいなかったがここまでとは思わんだろ。
まぁ、これでスライスの群れの動きが乱れた。
俺は素早く前のスライスに狙いを定めると拳を固めて振り下ろした。
グチャアッ!と、嫌な音を立ててスライスが弾け飛び、残りは十一。
背後から飛びかかってきた二匹を横から纏めて蹴り飛ばして、九。
すると身の危険を感じたのかスライス達は一カ所に集まるとスタコラサッサと逃げ出した。
無論、逃がすつもりはない。
俺は掌をスライス達の方に向け、唱える。
光属性初期魔法__
「__『閃光』ッ!」
掌から光の線がスライス達の集団の真ん中へと伸びていき、爆発する。
スライス達は為すすべもなく蒸発した……って!?火力高すぎだろ!?
主人公の名前やステータスについては次回紹介します。
2012/9/9 スライスの様子や細かいところを微修正。