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決戦(2)

 「__正義の、味方だと?」

 「ええ、正義の味方。善を勧めて悪を懲らしめる絶対の善であり光の存在。私はそれに憧れていた」

 「……だがお前のやろうとしていることは私達から見れば悪そのものだぞ」

 「そうね。でも、善と悪は表裏一体。どちらも違うようで同じもの。解りやすく言えば一人を殺せば殺人者、十人殺せば勇者で、百人殺せば英雄なのと同じようなものね」


 カザキリはそう言いながらも魔法の行使する手を緩めない。次々と周りの生命(いのち)が『魂喰い(ソウルイート)』の犠牲になっていく。

 やがてカザキリの掲げた右の掌に黒い水晶のような物質が現れた。


 「……ふふっ。やっと完成したのね、『魂のオーブ』が。大体二千個の魂を使ったかしら。でもこれで私の夢は実現する。叶うはずのない夢が……ね」

 「叶うはずのない?」

 「ええ。世界の破壊なんてこと、神々が許すとでも思う?不可能に近いのよ、そんな夢は__」


 カザキリはそこで一旦言葉を止めて俺達を見渡した。魔王軍、王都軍は共に『魂喰い(ソウルイート)』の犠牲にあい、その数を半分以上も減らしている。

 特に魔王軍の『魂喰い(ソウルイート)』を間近で受けたために壊滅寸前だ。


 「__でも、それを可能とするのがこの『魂のオーブ』なのよ。これは大量の生者の魂を取り込んだ物質。周りの生気を吸収しながら力を高める魔の宝具」


 『魂のオーブ』がカザキリの言葉に呼応するかのように鈍く輝いた。そして目で見えるほどの濃密な生気が渦を巻いて『魂のオーブ』に吸収されると『魂のオーブ』は少しずつ肥大していく。


 「__闇を我が手に


  __死を我が手に


  __我滅びを望む者


  __我世界を憎む者


  __我が歩む道に供はなく


  __我が歩む道に生者はない


  __闇の宝我が身体を使いて肉体を得


  __我闇の宝使いて求める力を得る


  __闇を解き放て


  __死を解き放て


  __宝が求めし贄はここに


  __宝を求めし贄はここに


  __契約に従い我が望みを叶えたまえや至高の宝よ__!」


 カザキリが呪文を唱えると『魂のオーブ』の輝きがより強くなり、徐々にカザキリの体内に取り込まれていく。カザキリを止めようにも俺達はその雰囲気に圧倒されて動くことができない。

 やがて『魂のオーブ』が完全に取り込まれるとカザキリの身体に変化が訪れた。


 周囲からどす黒い魔力か溢れてカザキリを包み込み、白い翼を少しずつ黒く浸食していく。

 そして足元から周りと同じ漆黒に染まった植物の芽が出て急成長し、高らかに哄笑をあげるカザキリを巻き込む。

 植物は瞬く間に全長数百メートルはあるであろう巨木に成長し、その頂点から数十メートルもある一対の漆黒の翼が広げられた。と同時に王都中から生気が少しずつ光の線となって翼に集まっていく。いや、王都だけじゃない。山や湖を越えた先の国々からも生気が吸収されている。

 更に巨木は繋がっている大地から直接世界のエネルギーを吸い取り、なお成長を続けていく。


 「__さぁ、始めましょう。邪悪なる世界を、非情なる世界を、悪意に染まった世界を、今こそ私の手で浄化しよう。全てを滅ぼし、一から再生し直そう。人間よ、魔族よ、獣よ、蟲よ、植物よ、神よ!今より始まるのは完全平等なる最期の審判。裁判官たる私より下す判決は死刑!よって例外なく滅びるが良い!」


 カザキリが吼えると突如として空が真っ黒に染まった。

 空を染めた雨雲は瞬く間に打ち付けるような大雨を降り注がせ、あちこちで落雷と暴風が地面を抉っていく。そして生命(いのち)が集まる速度が各段に上昇する。

 巨木から広がる翼は更に大きさを増していく。それと連動してカザキリの笑い声も大きさを上げる。

 逃げ惑う人々の中の誰かがポツリと漏らした。


 「……もう、もうおしまいだ……。この世界が……滅びる……!」


 確かにこのままカザキリを放置すれば世界は滅びる。だが俺は……俺達は絶望なんてしない。

 俺は隣を向いて仲間と会話する。


 「……勝てるか?」


 俺の問いにカグヤが答える。


 「愚問だぞ。勝てる勝てないじゃない。『勝つ』だろう?シンゲツ」


 カグヤの後にフィーも答える。


 「……あんな木偶の坊に負けるなんて選択肢はない。勝つのが当然」


 二人の答えは自信満々で、俺も二人と同じようにニヤリと笑いながら返した。


 「そうだったな。あんなでかいだけの木に負けるなんてなかったな。勝つぞ、カグヤ、フィー!」


 俺は鎌、カグヤは刀、フィーは四色の魔力の球体を構えてカザキリがいる巨木の頂上に向かって全速力で駆ける。


 「無駄なことを……まぁ良いわ。あなた達に真の絶望を見せてあげる」


 何を言われようとも俺達は一歩も引かない。迫る巨木の枝を軽く打ち払いながらカザキリのもとに突撃していくのだった。

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