魔界六将
俺が目覚めてから軽く二時間が経過して、今現在正座してカグヤとフィーに怒られている俺である。
因みに俺が奴を倒したあと、俺は一週間も眠り続けていたらしい。そりゃめちゃくちゃ怒られるわな。そんなわけで早々に説教を止めるという考えはなくなって素直に聞いているのだが……。
さすがに限界だ。二時間もずっと正座はきつい。骨だから足が痺れたりすることはないのだがいかんせん、感覚がえぐい程に痺れていると訴えている。この感覚だけというのがこれまた辛い。
なんせ実際には足は痺れていないのだから動かしても大丈夫なのに感覚の所為で動かすと痺れたように感じるのだ。
これはいつか肉体より精神の方が先にやられてしまいそうだ。なんとかして慣れないと……。
「__だいたいお前というやつは何の警戒も持たずに…………おいっ!聞いているのか!?」
「あーはいはい。聞いてる聞いてる」
「……絶対嘘。別のこと考えてる」
「シンゲツーーー!!」
くっそう……フィーのやつ。俺が聞いていないことをバラしやがった。説教がこれ以上延びるのは勘弁願いたいんだが。
どうでも良いが俺の身体は骨が真っ黒になった。身に着けているボロ布と装備している大鎌と合わさってどこからどう見ても死神にしか見えなくなっている。
て言うかいい加減にどうにかならないのかこれ。そろそろ街がどうなったのかと訊きたいんだがなぁ……。仕方ない。素直に謝るか。
「もう落ち着け。俺が全部悪かった。これからは無茶な特攻は多分しません」
「多分とはなんだ!?多分とは!本当に反省しているのか!?」
「してるしてる」
「コイツ……一度斬って無理やり反省させてやる!」
「……それよりも魔法で消し飛ばす方が良い」
ちょっ!?なんかフィーが黒い!
そんなに黒くなる程俺は悪いことをしたか!?
「お前の行動を省みてみろ!」
「……同意」
……ここに俺の味方はいないらしい。
それにしても俺の身体は本当にどうなってしまったんだろうな。神様(笑)は特にそんなことは言っていなかったけどなぁ。
……考えるだけ無駄か。
場所は変わって魔王城。
円形のテーブルが設置された魔王城の会議室に六人の男女が椅子に腰掛けていた。しかし一つだけ誰にも座られず空席になっている椅子があった。
会議室の最奥に腰掛ける威風堂々とした男__魔王が自らが力を認めた五人の将軍に話しかける。
「カザキリ。王都への襲撃の結果を報告せよ」
「はっ」
カザキリと呼ばれた女が立ち上がる。彼女は魔王軍の鳥軍を従える魔界六将の一人、風将を担うファルコンマスターである。
カザキリは部下から送られた書類を手に報告を開始する。
「王都には壊滅的なダメージは負わせられず、試作品のゴーレム及び邪将軍は全滅。更に邪将ギルヴィアも死亡しました」
その報告を受けて会議室に喧騒がもたらされる。細々と聞こえてくる声は「どういうことだ?」「あのギルヴィアが負けただと?」などといったものだ。
しかしその呟きは魔王が腕を振っただけで収まり、会議室には再び静寂が訪れた。
「……つまりは、この作戦は失敗したということか?」
「その通りです。それも我々の完敗という形でです」
魔王は少し黙ると再び口を開いた。
「……ギルヴィアを殺したのはどんな奴だ?」
「報告書によりますとギルヴィアを一対一の戦いで討ち取ったのはスケルトンの上位種族__ファウストです」
淡々と報告するカザキリの発言に今度は魔王ですら顔をしかめた。
「それは確かな情報なのでしょうか?見間違いなどということはあり得ませんか?」
そう疑問をあげたのは魔界六将の水将を担う男__キングセイレーンのアークレスだ。
しかしその疑問はカザキリの「私直属の部下がそのようなへまをするとでも?」という微小の怒りがこもった言葉に消された。
「……一年」
「はい?」
ポツリと魔王が漏らした言葉を鳥類さながらの聴覚で聞き取ったカザキリが声を出す。
魔王はおもむろに立ち上がると五人になった魔界六将を見渡して口を開いた。
「今から一年後に魔王軍の全勢力を以て王都を侵略する。カザキリ、お前は直ぐにこのことを王都の貴族共に伝えろ」
「畏まりました」
「うむ。これで会議を終了する。各々一年後に備えて自らの職務に戻れ」
そう言うと魔王は会議室を出て行った。それに続くように他の六将達も次々と出て行き、会議室に残ったのはカザキリひとりとなった。
「……ふぅ。今回の作戦が成功しなかったのは完全に予想外だったわね。でも、狼狽えることなく一年後に再び攻めると言った陛下の判断には流石魔王。と言った所かしら」
会議室でひとり呟いていたカザキリはゆっくりと会議室の開け放たれた窓に歩みを進めながら更に呟く。
「……ギルヴィアは無能だったけど最期の最期で役に立ったわね。今頃地獄で自分を殺した奴を怨んでいるのだとしたらいい気味なのだけど。
……それにしても無能とはいえドラゴンマスターを倒したファウスト……退屈はしなくて済みそうね」
そのまま彼女は窓の縁に足を掛けると何の躊躇もなく飛び出した。そして背中に収納していた翼を広げると力強く羽ばたいて空を進む。
__進む方角の先にあるのは、王都。
魔界六将とか言いながら既に一人が欠けている上に残り三人は名前すら出ていないという……。単純に出すとこ無かっただけですがね。