魔王軍襲来(2)
奴が剣を抜いた瞬間に理解した。
__コイツには勝てない。
直感だけでなく本能からそう警告する。目の前のこの存在にはどう足掻いても今の状態では歯が立たないと。下手をすればここで死ぬ可能性もあると。
だが、そう解っていても俺はここで逃げるわけにはいかない。
カグヤとフィー。二人が挑戦したのだ。俺だけが挑戦しないなんてことをすれば笑い物も良いところだ。
俺は一瞬だけ固まってしまった身体を解しながら鎌を構える。そしてステータスを確認する。
種族 ドラゴンマスター
レベル 46
……ドラゴンマスター。そのままの意味で考えれば竜種の最上位くらいのクラスだろう。
でも、そんなことで立ち止まっていても始まらない。刈り取る。ただ、それだけだ。
俺は勢いよく地面を蹴って鎌を振り下ろす。奴は平然と受け止める。
「……ほぉ、ファウストでこの速さか。なかなかにやるじゃねぇか。耐久性はどうだ?__邪剣壱式『黒焔』」
奴が呟くと剣から黒い火焔が吹き上がり、一つの球になって俺の前で爆発した。
俺はたまらず吹き飛ばされる。
「……ぐ、うぅ……」
「そらそら。逃げ回ってこの俺を少しでも愉しませてみせろ。__邪剣弐式『黒焔雨』」
奴が剣を振るとそこからさっきの火焔が幾つもの球を成して襲いかかる。
俺は少しふらつきながらも縦横に避けてやり過ごす。そして少しでも牽制する為に『閃光』を撃つが奴はグズリー・バーサーカーがやったみたいに『闇刃』で軽々と切り裂く。
「これで終いか?光属性魔法を使えるのは珍しいがこんな程度じゃ遊びにもなりやしねぇ」
「……くそっ……!」
「…………飽きた」
「……なに?」
唐突に奴がそう漏らした。俺が疑問の声をあげると奴はさっきまで見せていた愉しそうな表情ではなく、まるで壊れた玩具を見るような興味が完全に消えた目で俺を__いや、俺達を見た。
「つまらん。もうお前に興味はなくなった。__よって今すぐに死ね」
そう言うと奴は剣を思い切り振り上げた。それと同時に漆黒の炎が剣を纏って膨大な魔力の渦を生み出す。
「__邪剣終式『獄焔剣』」
そこから放たれた一撃は正しく死刑宣告そのもの。荒れ狂う魔力の渦は総てを焼き尽くす滅びの炎と共に進行方向にあるものを根こそぎ消し炭に変えていく。
俺にはどうすることもできない。ただ目の前の死を齎す悪魔の一撃を呆然と見ている。
__俺はここで死ぬのか?__
そんな言葉が脳裏に湧いた。
__こんなところで、誰も護れずに死ぬのか?__
言葉は次々と浮かんでくる。
__死にたくない__
そんな感情が突然生まれた。生まれた感情は瞬くうちに俺の心に届く。
__死ぬ訳にはいかない。あんな奴に、あの神様(笑)の造り出したこの俺が殺される訳にはいかない!俺は、俺達は生きる!__
俺がそう強く思ったときに、それは起こった。
「__んなっ!?馬鹿な!俺の『獄焔剣』を耐えただと!?」
俺やその総てを消し炭にする筈だった一撃は俺が生み出した七枚の光の盾に防がれていた。盾には傷一つついていない。
俺の頭の中には盾を出したときから一つのメッセージが流れていた。
__警告!警告!警告!魔力が暴走をしています。このままでは身体に何らかの異常を来します。直ちに魔法の使用を停止してください!直ちに魔法の使用を停止してください!直ちに魔法の使用を停止してください!__
だが俺はその警告を無視して魔法を組み立てる。あいつはここで俺が倒す。逃がすわけにはいかない。
「くそがああぁぁぁ!!もう一度味わいやがれ!」
あいつが再び剣を振り上げ炎を纏わせる。それとほぼ同時に俺の鎌に大量の光が収束する。
光は周りを照らし、まるで夜空に瞬く星々のような輝きを放つ。
「__邪剣終式『獄焔剣』!」
奴が剣に纏った魔力の渦を撃ち出す。それに合わせて俺も鎌に収束した魔力と光をこの斬撃にのせて一気に解き放つ。
闇夜に煌めく星屑の光。其は__
「__『星屑の煌めき』!」
俺が解き放った光の奔流は奴の漆黒の炎とぶつかり合い、均衡を保ったのはほんの一瞬。その一瞬の間に光は炎を消し飛ばし、その射線上の先にいる奴と魔王軍の連中を包み込み、そこに光の柱が立つ。
光は闇を覆い尽くし、その中にいる者達を蹂躙する。
光が収まった時、そこには跡形もなく消し飛んだ魔王軍の連中と__
「……はぁ……はぁ……てめぇ……絶対に殺す!!」
完全な竜の姿になった奴が怒りに燃えながら俺を睨みつけていた。
シンゲツが何かに目覚めました。
2012/9/9 近郊→均衡に修正。