Act1-2~駿の傷~
救急車の音を、間近で聞いたのは久々のような気がする。
どうして、どうしてどうしてドウシテドウシテドウシテ・・・コンナコトニナッタノダロウ?
どうして、どうしてドウシテドウシテドウシテドウシテ・・・俺は守れなかったんだろう?
俺の頭の中はこんなことでいっぱいだった。「駿がやられた。」そんな凶報を受けたのは、つい先ほどのことだった。俺は、帰宅部なので、特に用事もなく家に帰ったのだ。俺はその知らせを受けてすぐ学校に駆けつけたが、まだそのときには救急車は来ておらず駿と対面することが出来たのだ、・・・・・・・・・・右足があらぬ方向に曲がってはいたが。
「おい、翔なぜこんなことになったんだと思う?お前でもこれぐらい分かるはずだろう。」
「智、どうして俺とお前は駿を守れなかったんだろうな?」
会話がかみ合っていないことなどきっと二人とも気付いていたと思う。
「智」
「あぁ、お前の考えていることは大体分かっている。なんたって翔だからな。」
智も同じことを考えていたのだと思う。
「「駿の両親に謝りに行こう。」」奇しくも、久々に考えが被ったのがこの事だとは皮肉だった。
それは唯一つ、駿の両親に謝りに行くことだった。
***
駿の家の前
「智、俺が言うから後ろで聞いていてくれ。」
「あぁ、分かった。でもお前一人で大丈夫なのか。」
いつもの毒舌も鳴りを潜めている
そして俺は、否、俺たちは、駿の家のインターホンを押した。
『ピンポーン』
現状にまったくに合わない空虚な音が鳴り響く。
「はい・・・。あっ、翔君と智君何しに来たの・・・・」
と、駿の母である、小倉蘭が出てきた
「どうも。蘭さん今日のこと知ってますよね・・・?」
「ええ、知ってるわ。でも、それなら何のために来たの?」
「「すいませんでした!」」
俺はそういったとたん、目に涙がにじんできた。
「俺が・・いや、俺たち二人は昔決めてたんです。駿の事を守ろうって、でも俺たちには出来なかった。そのことが、俺たちには悔しくて悔しくて、だからせめて謝ろうとおもったんです・・・。
」無責任なことを言っていると思う。でも、やらなければならなかった。
「ねぇ、二人とも、駿が勉強できないの、知ってるわよね?だから、駿には運動がすべてだったのよ。それなのに・・・それなのに・・・」
彼女の言葉は重かった。とてもとても重かった。それはもう耳をふさぎたくなるほど、しかし彼女の言葉は続く。
「駿の状態知ってるんでしょ、右足を複雑骨折だそうよ。もしかしたら、一生運動できなくなるかもしれないのよ。・・・・・・・・もういいわ、帰ってくれる。これ以上いられると私も歯止めが利かなくなるから・・・」
拒絶だった、はっきりとしすぎた拒絶だった。
「はい、分かりました・・・。智、帰ろ。」
俺たちはそう言って帰った。彼女はあの後泣いたかもしれない、泣かないかもしれない。ただ、一つ言えることは俺たちは、駿を守れなかった、ただそれだけだ。
「駿、良かったわね。あなたのことをそんなにも思ってくれる人がいて・・・・。」
その言葉は誰の耳に入ることもなく、夜の闇に吸い込まれていくのだった。
***
あれから四日、無事に手術が終了し、医者の許可が出て駿と面会できるようになったのが昨日、俺たちが病院に来たのはやっと心の準備が出来た今日となった。
そのとき俺はある決意をしていた。
「やぁ、駿。」
「あっ、翔、智、きてくれたのか。」
「いやぁー、駿がいない間にも学園じゃあいろいろあったんだよ。例えばさぁ~」
俺は世間話をしようとした。智も、それに気付いたのだろう
「あぁ、最近のことならば、少なくともこいつよりはうまく話せるぞ。」
と、毒舌たっぷりに話に乗ってきたのだった。
それから俺たちは、久々にじっくりと世間話や、どうでもいい話をした。
***
「ところでさ、駿、足はその・・大丈夫なのか?」
俺は、出来るだけさらりと聞いてみた。しかし、駿のテンションの下がりようは決して目に良いもなんかじゃなかった。
「・・・三週間・・・三週間かかるらしい・・・」
と、悲しそうなそれでいて、少し安心したような声音だった。
「そうか・・。でもまた運動できるんだろ?
」俺は、軽く聞いてみた。
「三週間運動しないと、体ってすごく鈍るんだ。」
その声には最早、隠し切れない悲痛が混じっていた。
「つまり・・・。前みたいにしようと思うとかなり時間がかかるってコトか?」
運動にそれほど興味のない俺にはいまいち、理解することが出来なかった。
「あぁ、次の大会棄権だなこりゃ・・・」
そういって駿は力なく笑った。すると智が小声で、
「翔、お前にはしなければならないことがあるのだろう?だったら俺は立ち去ろう。」
と言って出て行った。やはりばれてたか、でもそれは好都合だった。俺は出来るだけ真摯に問う。
「駿、俺に教えてくれないか?4日前何があったのかを。」
そういったとたん駿の顔色が変わった。
「そんなことを知ってどうするつもりだ?まさか、あだ討ちでもしてくれるのか。」
「そう、そのまさかだよ。だから駿、教えてくれ。」
「お前にそんなことをする理由なんてないはずだろ!?」駿が声を荒立てた。
「いや、あるね。それは・・・・・・・・・秘密だ。でもあえて言うなら、自分のためでありそして幼馴染だからかな。」
本当は、ぜんぜん違う真の理由があるのだが。しかし、今はそのときじゃない。
「その程度の理由で満足するとでも思っているのか!」
駿は、気持ちの高ぶりが、制御できないようだ
「お前は、本当にその程度の理由とでも思っているのか?」
やばい、少しイラついてきた
「幼馴染の、大事な足壊したんだ、俺は犯人を地の果てまで追うさ。」
出来るだけ、平静そうにやっとのことその言葉をつむぐことが出来た。
「・・・・・・分かった、翔の決意に負けたよ。でも、一つだけ約束守れるならいいよ。教えてあげる」
「約束って?」
俺にとって約束一つで教えてくれるのなら安いものだと、内心喜んでいた。
「絶対に危ないことをしないこと。それだけ」
俺は絶対守れないな、と思いつつうなずいた。
「分かった。守る。」
「じゃあ、話すよ。私が四日前に体験したことは・・・」
彼女はそういってとつとつと話し始めた。