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貴族令嬢に異世界転生したので権力を握って悪役令嬢として偽善者を悔しがらせる政治を進めたけど、そこに入ってきた邪魔者と対峙することに その結末は?

掲載日:2026/07/18

私は少し前まで現代の日本で暮らしていた普通の女だった。私はとにかく偽善者や綺麗事きれいごとが大嫌いだ。現代の日本で生きていた頃は綺麗事を言う奴を見つけるたびに厳しい批判を浴びせてきた。そんな私だったが、ある日交通事故に遭って命を落としてしまった。しかしふと気が付くと、私は中世の貴族の娘になっていた。どうも私の魂はこの世界のフェーリという貴族令嬢に憑依し、フェーリとして生きていく権利を得たようだ。


私は現代日本では世の中を動かす力は持てなかったが、貴族令嬢とあらば打つ手次第では政治権力を手にして私が理想とする綺麗事と偽善者を排除した国を作ることができるはず。そう思った私は、たとえ悪役令嬢と呼ばれようともあらゆる手練手管を使って権力を奪うことを決意したのだった。


『ところで、この国ではどのような政治が行われているの?』


まずはこの国の今の政治を知らないといけない。そのために私は侍女にたずねた。


「はい、もちろん政治の最終権限は王様が持っておりますが、王様は公爵令嬢であるユリナ様のことを強く信頼しており、ユリナ様に政治の多くを任せています」


『ふーん、で、そのユリナはどんな内政をしているの?』


「この国は貧富の差が激しかったことから王様の政治に不満を持つ者もいたのですが、ユリナ様が政治に携わるようになってから物乞いへの炊き出しなどを行うとともに、国が主導して仕事がない者達が働ける場を作るなどし、物乞いだった者達も職を得られるようになりつつあります」


『はぁ? そのユリナとかいう女、典型的な偽善者じゃないの。やはりこの国にもこういう奴がいるのね』


「また脚を切断せざるをえなくなった者や、足腰が不自由な者達が移動をしやすくなるような“車いす”と呼ばれる器具の開発なども進めているようです」


『ほんと偽善とキレイゴトの香りがプンプンとする女ね』


「また詳しくはわからないですが、国を流れる川の水質の調査を科学班に命じているとも聞きました」


「それと関係があるのかわかりませんが、川の近くにある工場の排水に何らかの規制を設けたとも聞いております」


『環境保護ってやつね。ますます胡散臭いわ。環境保護とか言い出すのは現実を知らない奴だけよ』


『こういう奴に国を預けていてはいけないわ。何が何でも私が権力を握って、ユリナを政治に関わらせないようにしないと』


一方、国王から信頼を得て政治を担っているユリナは定期的に街へと出向いて自ら炊き出しなどを主導していた。


「ユリナ様、王様から政治を担う権限を預かっている公爵令嬢であるあなた様がわざわざ直接炊き出しまで行わなくてもよいのではないでしょうか。炊き出しなどはユリナ様にお仕えてしている我々だけで十分にできますので」


しかしユリナは答えた。


「いえ、これは私がただ炊き出しをしたいから街に来ているのではないのです。街に出て民の声を直接聞くためなのです。炊き出しに来る者達がどのような生活をしているのか、それを肌で感じることでどのような政治が必要なのかを考えたいのです」


「私が行っている内政を『貧民に甘すぎる』と考える人もいるようですが、これはただの人助けとして行っているわけではありません。物乞いの者達が働けるようになれば、生活苦から盗みなどをする者も減りますし、国の税収も増えます。結果的に全ての人の利益となるのです」


そう言うと、ユリナは再び列に並ぶ者達に炊き出しを配るとともに、街の様々な人達から話を聞いて回った。


一方、フェーリはいかにして自分が政治権力を握るかを考えていた。様々な考えを頭の中で巡らせるうちにいいアイデアが浮かんだようであった。


『ちょっと聞きたいんだけど、王様には王子とかいるの?』


「はい、一人だけ王子様がいらっしゃいます。今は13歳です」


それを聞いたフェーリはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


『ねえ、私自身がその王子様の身の回りの世話や教育係になることはできる?』


「教育係という名目であれば可能かもしれません」


『じゃあ、ちょっとその方向で話を通してもらえる?』


話は上手く進み、フェーリは若き王子の教育係としての役割を担うこととなった。


王子の教育係となったフェーリは過剰なまでにかいがいしく身の回りの世話なども率先して行い、ほんの数ヶ月で王子から強力な信頼を得ることに成功した。王子は何をするにもフェーリに相談をし、フェーリから言われたことは何でも信じるようになっていった。


『さて・・・と、これで王子の信頼を得ることには成功したわ。だけど絶対的な権力を持っているのは国王・・・ここをどうするかよね ・・・ん?』


フェーリはまた何か“いい考え”が思い浮かんだようだった。


『ねえ、この国に手に入りやすい毒草ってある? すぐに死ぬようなやつじゃなくて、徐々に衰弱させていくぐらいの毒を持ってるやつ』


「はい、ありますが」


『そう、じゃあそれを大量に採取して乾燥させて粉末にしておいてちょうだい』


そしてフェーリは権力奪取のための次の手を打ち始めた。


『王子様、私、あなたのお父上のためにお茶を入れましたの。お父上のもとへ運んでくださる?』


フェーリはそのお茶の中に毒草の粉末を加えていた。フェーリを全面的に信頼していた王子は何も疑うことなくそのお茶を国王のもとへと運んでいった。


王子はその後も毎日のようにフェーリが入れたお茶を国王のもとへ運び、ひと月も経たぬうちに国王は床に臥せるようになった。それを見て心配になった王子はフェーリへと相談した。


「お父上が床に臥せるようになりもう二週間ほど経ちます。これでは国の政治も滞ってしまいます。どうすればよいと思われますか?」


『王子様、落ち着いてくださいまし。あなたはもう、国王となってこの国の政治を担うだけの力をつけております。お父上に王位を譲るようお願いしてはどうでしょう?』


「しかし私はまだ13歳です。まだ十分に政治を担える自信がありません」


『私がいるではないですか。国王となられたら、私を摂政に任命してください。摂政とは若き王を補佐して政治を行う者のことを言います。私が王子様を全面的にお支えいたします』


フェーリを強く信頼していた王子はその助言を全面的に受け入れ、王位を譲ることを国王に求めた。床に臥せる状態が続いていた国王もそれを了承し、この国に新しい王が誕生した。


「これで私はこの国の新しい王となりました。しかし私にはまだ政治が十分にはわかりません。それゆえフェーリ殿、政治はあなたに全面的に委ねたいのです」


『身に余るお言葉、ありがとうございます。全力を挙げてこの国を素晴らしいものにしてご覧に入れます』


そしてフェーリは新たな国王から摂政に任命された。あまりにも事が思い通りに運んだことから、フェーリは高笑いしたくなる思いであったが、新たな国王の前ではそれを抑えながら殊勝な態度を演じていた。


『ふふふ、歴史で習った摂関政治のやり口をおぼえていて良かったわ』


“この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば”


『あぁ、なんて今の私にふさわしい歌なのかしら。藤原道長がこの歌を詠みたくなった気持ちが今ではよくわかるわ』


フェーリが摂政の座に就いたことによって、ユリナは政治を担う立場から退けられることとなった。


そしてフェーリは矢継ぎ早に自らの望む政策を次々と打ち出していった。


『まず炊き出しは廃止いたします。そして仕事のない者が働けるようにするための国営施設も全て閉鎖します。仕事が無いのはただの怠惰による自己責任であり、そのような者達に甘い政治をするのは善良な民が納めた税金の無駄遣いです』


『また“車いす”とかいう器具の開発も中止します。そのような物を使って街に出る者達が増えれば、健康な民に迷惑がかかることが目に見えています』


『そして科学班に行わせていた川の水質調査は中止し、ならびに工場の排水への規制も撤廃いたします』


その結果、国の貧富の差は再び大きく広がり、ユリナの政治によって減りつつあった街の物乞いも急増することとなった。


「フェーリ様、街に物乞いが再び増えたことに不満を持っている者もいるようですが大丈夫でしょうか」


侍女がたずねたが、フェーリは悪びれることもなく言い切った


『問題ありません。物乞いはすぐに減らします、物理的に』


『とはいえ、あまりストレートにやると反発が起きそうね・・・そうだわ』


フェーリは街に民衆を集めたうえで新たな税制を発表した。


『これまで国民からは収入の20%の税金を納めてもらっていました。しかしこれでは物乞いや貧民は税金を少額しか納めずともよくなってしまい、彼らを優遇することになります。そこで現在ひと月の税金が5万ゴールドに満たない者は、一律に毎月50万ゴールドの税金を支払う義務を課すものとします』


『50万ゴールドという税金は一般国民の中で特に裕福な者達の納税額とほぼ同じです。物乞いや貧民は我が国への貢献が低いのですから、その懲罰としてこれぐらいの税金を支払うのは当然でしょう』


『また外国から移住してきた者達にも同様の税金を課します。彼らはこの国の文化を乱す存在ですから、一般の国民よりも多額の税金を払うのは当然のことです』


物乞いや貧しい者達はそもそも毎月の収入が50万ゴールドに満たないため、彼らがその税金を払えないことは自明であった。そのため外国からの移住者も含めて、税金を支払うことができない者達が急速に増えることとなった。


そうした事態を受けて、再びフェーリは民衆を集めて演説を行った。


『今この国では税金を支払わない者達が急激に増えています。納税は国民の義務であり、それを逃れることは国家に反逆する大罪と言わねばなりません。このような大悪人には厳しい処罰が必要です。これから税金を2ヶ月続けて払わなかった者は死罪とします。そしてそのような大悪人を死罪にするための処刑場を街の中心に設置します。こうした大罪人はただ死罪とするだけでなく、見せしめとすることで二度と真似をする者が現れないようにしないといけません』


フェーリが課した税金は物乞いや貧しい者達がどうあがいても払えるものではなかったため、その全員が死罪となることが決定した。また外国からの移住者の大半も税金を支払うことができず死罪となることが決まった。


そして税金未払いの罪を課せられた者達の最初の処刑が行われる日、フェーリは処刑場に姿を見せ、集まった群衆に向けて演説を行った。


『これから処刑される者達は税金未納という国に対する反逆を行った大罪人であり、処刑されるべくして処刑される者達です。この処刑を進めることによってこの国を乱す人間が一人ずつ減っていき、この国はますます豊かになるのです。観覧に集まった者達はぜひ喜ばしい思いでこの処刑をご覧になってください』


処刑を観るために処刑場に集まっていた群衆はフェーリに喝采を浴びせ、処刑が執行される間も彼らは大いに盛り上がった。


『ほら見なさい。この処刑場に集まった民どもの喜びに満ちた顔を。皆こうした政治を望んでいたのですよ』


処刑は毎日のように行われ、そのたびに処刑場には多くの観衆が集まり大盛況となっていた。物乞いや外国から移住者を無条件に処刑しては反発もあるだろうと考え、その者達が必ず税金未納となるような税を課したうえで処刑にかけたフェーリの狙いは見事に成功した。


しかしフェーリの行っている政策を心配して侍女がたずねた。


「フェーリ様は物乞いや外国からの移住者に強い憎しみを抱いておられるのですか?」


『嫌いと言えば嫌いよ。でも正直なところ、彼らそのものは本当はどうでもいいのよ。でも彼らを処刑すれば偽善者共が机を叩いて悔しがるでしょう? それがたまらないのよ』


『今もユリナが悔しがっている顔が目に浮かぶわ』


フェーリの政策は処刑の娯楽化の効果もあって支持を得ていたが、一方でユリナの政治に肯定的だった者達の間では不満もたまっていた。とはいえ表立って反発すれば処刑されるのがわかっていたため、ほとんどのユリナ支持派は沈黙を貫いていた。


しかし、一部のユリナ支持派の民衆がフェーリへの反対運動を起こした。


「フェーリ様は税金未納を理由に大規模な処刑を行っていますが、これは貧しい者や移住者を標的として絶対に払えない額の税金を課すことで無理やり税金未納に追い込んだうえでのものであり、その本質は貧しい者や移住者の虐殺に他なりません」


反対運動を起こした者達は即座に捕らえられ、「偽善的な主張を掲げながら国家に反逆した罪」として死罪が決定した。


『私に対して反対運動をするような偽善者を処刑すれば、他の偽善者共も処刑が怖くて黙ることでしょう。偽善者が黙ること、国にとってこれほど素晴らしいことはありません』


こうした国の極端な変化を見て、退位した前国王は国の行く末を心配し新国王(元王子)に「大規模な処刑によって国民が大幅に減ったことで税収も減っているが本当に大丈夫なのか」と問い、新国王も「お父上がこのように心配しております」と前国王の言葉をフェーリへと伝えた。


しかしフェーリは自信に満ちた表情で答えた。


『それでも民は私の政治を歓迎しております。毎日大盛況の処刑場を見ればわかるでしょう。「税金を支払わない大罪人のあいつらのせいで俺達が苦しんでいる」と大盛り上がりですよ』


その後も貧しい者達と移住者、さらに反対運動を起こした者達への処刑は進み、予定されていた全ての処刑が完了した。そしてこの国からは物乞い、貧しい者達、外国からの移住者が完全に一掃された。


しかし全ての処刑が終わったことで「また誰かを処刑してくれ。俺達は処刑を見たいんだ」という声が広がり始めた。


「フェーリ様、新たな処刑を求める声が上がっていますがもう貧民も移住者も反対者も全て処刑してしまったため、処刑場の再開の目処が立たなくなっております」


侍女はそう心配したが、フェーリは堂々と答えた。


『問題ありません。残った国民の中から相対的に貧しい者を選んで同じように一律50万ゴールドの税金をかければいいのです』


そしてフェーリは残っている国民のうち収入が一定額よりも低い者達にも一律50万ゴールドの税金をかけ、支払いが2ヶ月滞った者は死罪にすると言い渡した。


それを聞いて「我々は他人が処罰されるのを楽しみたかっただけなのに、まさか自分達にまで火の粉が降りかかるなんて思っていなかった」といった感想を持つ者達も国の中に増え始めた。


それでもフェーリの新しい税制はそのまま実行された。そして税金を支払うことができない国民が再び増え、彼らは一律に死罪となることが決まった。それでも処刑を観覧しに来る者達は後を絶たず、処刑場は以前と変わらない盛況が続いた。


そんな中、国を流れる川の近くに住む者達の間で奇病が蔓延し始めた。体が強く痺れたり、体の一部が自由に動かなくなるなどの症状が出る者が急速に増えていた。


その話は以前までこの国の政治を任されていたユリナの元へも届いていた。


「まさか、フェーリ様は私が命じていた工場の排水への規制まで解除していたのですか。あの工場からの排水は国の科学班の調査によって有毒な金属が大量に含まれていることがわかったから規制をかけたのに、それを解除してしまうなんて・・・」


一方、川に近い地域でばかり症状が発生したことで、川の水が奇病の原因なのではないかと考える人達が増え、患者を中心に川の水質調査や原因究明を求める声が上がり始めた。


しかしフェーリはそうした声に対しても厳しい態度を一切崩さなかった。


『下々の者共が国に何かを求めているようですね。自分達では何もせずに国に甘えようとする、こういう“市民運動”なる胡散臭いものは大嫌いです』


『しかも水質調査をしろですって? 水質調査のような環境保護臭いキレイゴトを求め、健康な者達に迷惑をかける不自由な体となりながら国にまで抵抗する。これほど罪深きことがあるでしょうか。全て捕らえて処刑してしまいなさい』


その結果、奇病の蔓延に対して国に対策を要望していた者達は患者を含めて全て死罪となり処刑が執行されていった。しかし処刑に対する喝采の声は徐々に小さくなりつつあった。


そして奇病への対策要望運動を指揮したノエルだけはより残酷な処刑として見せしめとするために、彼の処刑執行日を90日後と決定し、その処刑はフェーリ自身が執行すると発表された。


一方、ユリナは自分の命を賭してでも立ち上がってフェーリに抵抗すべきかどうか考えていた。そしてユリナはフェーリの政治をやめさせるには自分が動く以外に方法はないと考えて行動に出た。


ユリナはフェーリの奇病への対応や収入の低い者を標的として処刑を進めていることなどに内心不満を抱いている者達を集め、水面下でレジスタンスを結成した。その活動はフェーリの耳に入らないよう極めて慎重に行われ、その規模は瞬く間に数百人を超えるまでに膨らんだ。


そしてノエルの処刑が執行される日、フェーリが処刑場へと現れたが、ユリナを中心とした数百人のレジスタンスも集まりフェーリに対して処刑執行への反対を訴えた。


それを見たフェーリは動揺する素振りすら見せず、ユリナに言い放った。


『ユリナ様、私は摂政としてこの国の政治を預かっている身分ですよ。すなわち私に異を唱えることはこの国に反逆すること。それがどれほどの大罪であり、どのような処罰が下されるか、あなたとてわからないはずはないでしょう?』


フェーリはさらに言葉を続ける。


『私はあなたの行っていたキレイゴトの政治がヘドが出るほど嫌いでした。あなたのような偽善者は政治に携わるべきではありません』


『偽善者などというのは、自らの心の悪を隠しながら善人を演じようとする嘘つきです。あなたは私を悪だと言うでしょうが、仮に私が悪だとしても自分の悪の心に対しては誠実です。自分の心に嘘をつくあなたのような偽善者よりもよほど誠実な人間なのです』


フェーリから厳しい言葉を浴びせられながらも、ユリナは冷静に答えた。


「たしかに私はあなたの言うように偽善者なのかもしれません。自分の心の中の悪に対して誠実ではないかもしれません。ですが、あなたの言う『自らの心の悪に対して誠実な政治』で果たしてこの国の民は幸せになれたのでしょうか」


「あなたが課した不合理な税制によって多くの民が命を奪われ、工場排水への規制を撤廃したことで奇病が蔓延し、それに適切な対策を取るどころか患者を中心とした奇病対策を求める者までもあなたは死に追いやりました。この国の民の数は大幅に減り、それによって税収も急減して財政の逼迫ひっぱくも進みました。あなたはこれでこの国の民を幸せにできたと言えますか」


「あなたは処刑が大盛況だったから民は幸せだったと言うでしょう。ですが、古くから愚かな政治を指す言葉として『パンとサーカス』というものがあります。あなたの行った政治は、『誰かを憎みたい』『誰かが傷つくのを楽しみたい』と思ってしまう人の心を利用したサーカスに過ぎません。言わば、あなたは自らの国の民を生贄いけにえとしてサーカスを行ったのです。一人一人の民こそがこの国の何よりの財産であるにもかかわらず」


「あなたの行った政治は『パンとサーカス』よりも酷いと言えましょう。なぜならパンすら与えることなく、ただサーカスのみによって人心を惑わしただけなのですから」


ユリナの言葉を聞いてフェーリは激怒した。


『黙りなさいユリナ! 私は、今この場であなたを処刑台にかけることもできるのですよ。あなたが処刑されるとしたら、ここに集まっている群衆達はどれほど喝采することでしょうね。私にこれほどまでの言葉を言ったのだから、もうその覚悟はできていますね?』


そしてフェーリはユリナを処刑台にかけるよう命じた。しかし後ろから思わぬ人物がフェーリに声をかけた。


「フェーリよ、ユリナを処刑することはまかりならん。そもそもユリナがレジスタンスを結成してその指揮にあたったのは私が指示によるものである」


声をかけたのは前国王であった。しかしフェーリは前国王に対しても全くひるむことなく言葉を返した。


『前国王様、体調が回復されたのですね。おめでとうございます。ですが、あなたはもう今や国王ではありません。私は今の王様から直々に摂政に任命されて政治を全面的に任されているのです。あなたは既に国王の座を降りた以上、私の政策に異を唱えることはできないのではないですか』


ここでフェーリにとって思わぬ人物から言葉が投げかけられた。


「いえ、父上は再び国王となりました。なぜなら私が王位を自ら返上し、再び父上に国王の座に戻ってくださるようお願いしたからです」


それは現国王であったはずの王子だった。


「フェーリ殿、私はあなたのことを全面的に信頼していました。しかし父上から聞いたのです。父上はあなたが入れて私が運んでいたお茶が急激な体調悪化の原因ではないかと推察し、科学班にお茶の分析させたのです。そして、そのお茶に毒草の粉末が加えられていたことが判明しました。」


「私はこれを聞いてひどく落胆しました。まさかフェーリ殿が私の父上に毒を盛るなどという愚行を行うとは思ってもいませんでした。そしてそれを知ったとき、フェーリ殿が私に近づいたのも権力を手にするためだったのではないかという強い疑念を抱くようになりました。そのとき私はすでに国王となっていましたが、私には十分に政治がわかりません。それゆえ、この国を再び立て直すために王位を再び父上へと返上したのです」


そして息子から王位を譲られた現国王は言った。


「聞いたなフェーリよ、この国の今の最高権力者は私である。したがっておまえに命じる。フェーリよ、おまえを摂政の任から外し、今後一切政治に関わることを禁ずる。そしてそなたには国王であった私を暗殺しようとした罪がある。王子に取り入ったうえでその立場を利用して国王の暗殺を謀る・・・これがどれほどの罪であるか、まさかわからないではあるまいな」


フェーリは自らの政治権力の基盤が完全に壊れたことで顔面蒼白となっていた。


『しかし王様、私はあくまでこの国のために身を粉にして働いたまでです。偽善者を権力の座から排除し、キレイゴトの政治を終わらせる、それこそが国を豊かにするものであると信じて政治を行ったまでです。たしかに王様に毒を盛ったことが罪であることは私も認めますが、私にはそれを行うだけの正当性があったのです。どうか罪を軽くしていただけないでしょうか』


しかし国王はフェーリに対して厳しく言い放った。


「おまえが課した不合理な税制によって無理やり税金未納に追い込まれた者ですら死罪となったのに、どうして国王に毒を盛って暗殺を謀ったおまえの罪がその者達よりも軽くなりうると言うのか。おまえが行ってきた政治の基準に照らし合わせれば、おまえは千度死罪となっても文句は言えぬほどだろう」


答えに窮したフェーリは処刑を娯楽として楽しんでいた民衆であればまだ自分を支持してくれると考え、処刑場に集まった群衆のほうを向いて問いかけた。


『私は偽善者というこの世の最大の悪を懲らしめてやりたかっただけなのです。処刑を楽しんでいたあなた達だってそうでしょう?』


すると集まっていた群衆達が口々に答えた。


「ええ、そうですよフェーリ様。俺達は処刑を観るのが大好きでさ。でもあんた、王様に毒を盛った大罪人なんだろ? あんたほどの大物が処刑されるのを観れるなんて、俺達にとっちゃ最高の娯楽だよ。これまで見てきた処刑の中でも一番ワクワクするぜ」


「それにさぁ、フェーリ様よ。あんた多くの民を反逆者だといって次々と処刑してきたよな。でも今この場で王様に楯突いているあんたこそが他の誰よりも反逆者なんじゃないかい?」


フェーリは自分が民衆から支持されていると信じていたため、この冷たい反応を聞いて青ざめ、力なくその場に座り込んだ。


そしてユリナがフェーリに言葉をかけた。


「あなたは今、民が自分を裏切ったとお思いでしょうが、誰かが処刑されるのを楽しむように民の心を導いたのは、他ならぬあなた自身なのですよ」


「自分の生活が何も幸せにならなくとも、石を投げても良さそうと思われてしまった者が痛い目を見れば喜ぶ社会。それがあなたが作ってきた社会であり、あなたの望んだ社会でしょう。そして今、その“石を投げてもいい者”にあなたが選ばれたのですよ」


「結局あなたは、あなた自身が作り上げた怪物に食べられてしまったのです」


フェーリは怒りに満ちた表情でユリナのほうを向いて言った。


『ユリナ、あなた善人なら私を助けなさいよ!』


ユリナは憐れなものを見るような目をしながら答えた。


「あなたを解放することで民が幸せになるのなら私も考えますが、どのように考えてもそれはありえないですからね」


「それにしても・・・人を偽善者と罵り、偽善者は嫌いだと言いながら、最期にはその相手に無限の善性を求めるのですね」


「ただ、これが最後ですからあなたが望むように振る舞いましょう」


ユリナのその言葉を聞いて、フェーリは「しめた!」と思った。


「あなたによると私は偽善者ですから。あなたのお望み通り、ここは偽善者らしく振る舞わせていただきます」


そう告げるとユリナはフェーリに背を向け、その場から立ち去っていった。


そして、フェーリは国王の指示のもと即座に処刑された。

以前の短編小説「公爵令嬢である私に熱心に求愛してきた男と婚約したら、浮気されたうえに婚約破棄されて私の父が激怒!そこで選んだ私なりの究極の復讐とは・・・?」に続いてユリナが作中に登場しています。


補足:

「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」

は平安時代に摂関政治の全盛期を作り上げた藤原道長による歌です。


他の解釈がなされることもありますが、一般的には

「この世は自分のものであるかのよう。満月のように欠けたところすらない」

と自らの栄華を誇った歌と解釈されることが多いです。

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こんな悪霊に憑依されたフェーリさんが可哀想
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