向かいの次男
あら奥さん。おはようございます。
ねえ?暑いねー?
あ、そうなんだ。お子さんの送迎が終わったとこなんだ?
そっか、大変ねえ。
あ、そうそう!
そういえばさあ!
ちょっと最近さあ、気になることがあってさあ。
聴いてくれる?
いま、時間大丈夫?
…うん。うん。
お向かいの今岡さんとこの次男なんだけど。
…似てると思わない?
指名手配の写真よ!
あの、〇〇駅前の〇〇で、〇〇したってやつ!
うん。…あ、それ違うの!
それ違う。
あの子、黒縁の眼鏡かけてるじゃない?
あれ、とってみて。
いや、頭の中で!
バカね。本人から取れなんて言うわけないでしょ。
アハハ、やだもう!
たまにね、あの二階の窓から、じっとこっち見てんの。
そ。キモイわー。
キモイったらありゃしない。
そうよお。アレでしょ?
大学受験に失敗して。
それからおかしくなっちゃったんでしょ?
ね?怖いね?
あ、それは西田さんとこだっけ?
あ、そうだっけ?
あ、そうなんだ、ふーん。
しっ!来た来た。来たわよ。
あらぁ。どーもぉー。おはようございますぅ。
…ハー。もうヤんなっちゃう。
いつもは挨拶なんかしないのよ、あの奥さん。
しないよー。
あなたがいるからじゃない?
外ヅラがいいんだから。
だってほら、見たいま?
あの人、目が笑ってなかったでしょ?
あの親にしてあの子ありよ。
してたしてた。疲れた顔。
気づいてんのよきっと、薄々。あの奥さんも。
…でしょー?やってそうでしょー?
わたしね、指紋とってやろうと思って。
そうそう。あのお宅、牛乳とってるじゃない。
そうそう、外に出してあるやつ!
アレをね、こないだ、家の前を掃除するふりして、そーっと手を伸ばしてたら、見つかっちゃって。そう!
『何やってるんですか!』
って、すごい眼でキッと睨まれて!
そうよお?怖かったあ。
『何やってるんですか!』キッ!こうよ?
そう。
『何やってるんですかっっ!!』
おーこわ。
…え?なになに?猫?
やだ怖い!猫がなに?猫がどうしたの?
ええ、ええ。
猫に…イヤーーッ!!やめて!!言わないで!怖い!
…うん。…うん。
…いいよ。言って言って。猫にどうしたの?
え?
…エサをやってた?
…ええ。
…ええ。
糞をするから困る?
……あ、そうなのね。そうなんだ。ふーん。
そうねー。それはちょっと困るね?
ね?
え?ちゃんと聴いてる。うん、うん。
そうよお?
だって、賞金300万円よ?
知らないの?そーよお?!
300万。
ね?すごくない?
え?
うん。うん。
…事件の時、まだ10才?
あらそうなの?
あっらぁ!え?そうなの?!
だって…えー?でも、どうかしら。
だって、似すぎてない?
そうよぉ、見てごらんなさいよ。
あの駅前のパチンコ屋の入り口のとこに貼ってあるから。
あ、でもアレよ?あの顔に、黒縁の眼鏡を足して、見てみて。
だからバカねえ。描いちゃダメだってば。アハハハ。
え。ちょっと待って。
なにその時計。買ったの?
えー、かわいー。
えーどこで?
そうなんだー。
あ、ほら出てきた!あの子よ、あの子。
なに?なに?
やだ怖い!
目を合わしちゃダメよ奥さん。
あ、どーもー。おはようございますう。
え?え?なにかしら?ええ。え?
わたしが?
地下帝国のスパイ?
あ、そうじゃなくて?
自分が?
うん。うん。
…ん?
…どういうこと?
あ!あなたが?
あなたがスパイなのね。…地下帝国の?
ちょっと奥さん!!
ほら!!
ね?
ほら!!
やっぱり!!
え?え?
だから俺の周りを嗅ぎ回るな?
…え?
近い近い近い!
やだ、あたしは別に…
録音?録音てなにを?どういうこと?
あなた、ねえ、ちょっと、なん…。
ちょ!近いってば!
なに?
ちょっと!近寄らないで!
い、いやあああああーっ!!!
殺さないでえええええええ!!!
ぎやああああああああああああああああ!!!
完




