9.あの騎士再戦
どうしてあんなに強い奴が屍人になっているんだ!
やばい、やばい──と、心の中で喚きながら、あの騎士を見据えつつバックステップで距離をとっていく。恐ろしくてとても背中は見せられない。
幸いあの騎士は追ってはこなかった。まだこちらを見つけていなかったのだろうか。それでも、何本もの木人の間を抜けてだいぶ離れてからやっと足が止まった。
一度は倒しているものの、あの騎士は私の手に余る。“弱点なし”と言われる強さだけじゃない。スキル頼みの私にとっては「天敵」としか言いようのない相手なのだ。
あの騎士はこちらが使った技に迅速に対応する。〈神鳴る一太刀〉なら太刀も雷も避け、〈鳳雛演舞〉ならスキル効果発動中の10秒間ずっと逃げ回るといった具合に技を無効化していくのだ。もちろん普通に戦っても攻撃力・防御力が高く、通常攻撃はディレイがかっていて避けるタイミングが取りづらい。
ダイラーみたいなプレイヤーなら強ければ強いほど大歓迎なんだろうが、私は二度と会いたくない。今はやられると二度と来られないフィールドにいることだし、逃げられるものなら逃げておこう。
再び周囲の木人退治を始める。
倒しても倒しても、木人どもはわらわらと湧いてくる。終わる気配がない。
だんだん飽きてきた。ここまで変化がないのはゲームとして面白くない作りだ。ガルの言う「僕たちが作った群れではない」からかもしれないが、あの騎士が現れたことがゲームとしての作りなのだとしたら? ダンジョンでその階のボスを倒せば階段が現れる、みたいな……
作戦変更。あれが道を開く鍵ならば、倒さなければならない。嫌だけど、退屈なゲームはもっと嫌だ。
倒した時の装備やスキルを思い出す。落ち着け。初対戦時とは違う要素もある。あの時はタイマンで限られた場所だったが、ここは場所も広く、周りには大勢のモブ敵。そこは生かさなければ。
あの騎士には役に立たない『黒蜘蛛のマント』を脱ぎ、花粉が飛んでいるからアサシンマスクはそのまま。鋼と竜鱗の鎧は重さの割に防御力が高く、素早さと状態異常耐性も上げてくれる。それだけでは心細いので、スキルは腕力・体力・敏捷性などキャラステータスを上げるものばかり付ける。左腕に『魔鏡の盾』。右はまず『雷光』。試したいことがある。
主にハチの巣を付けた木人を倒しながら(スキルは使わず、通常攻撃でなるだけ静かに倒す)あの騎士の方へ向かう。結果的に騎士の周りのオオクマバチはいなくなり、私を追ってきた花粉と魔法の弾をばらまく木人が集まってきた。
騎士に見つからないように背後にまわる。木人が私を攻撃して気づかれる前に雷光を振りかぶる。
〈神鳴る一太刀〉!
不意打ちは見事に騎士の頭に的中。しびれて動けないうちに切りつけてダメージを稼ぐ。
騎士が盾で私の攻撃を受け止めた。盾の陰から重い剣の振り。避けてダッシュで離れる。ガシャガシャと鎧の音が追いかけてくる。でも距離は離せる。今の私の全力がそうとう早い。
周りの木人どもが本気になった。花粉をばらまき、魔法の実を投げつけてくる。花粉はどうしようもないが、魔法なら魔鏡の盾の効果ではじける。威力は元の魔法の三分の一になるが、角度を調節すれば敵に当てることができる。
下がりながら撃たれた魔弾を騎士へはじき返す。ほとんど避けられたものの、いくつかは当てることができた。騎士の攻撃が届く前に木人を障害物にして逃げる。相手が私を見失うまで隠れて、再び〈神鳴る一太刀〉。
卑怯? 手間? そんなのどうだっていい。あの騎士が道を開く鍵なら倒されるためにいるんだ。後ろからでも逃げ回ってでもとにかく倒す。もうスキルが当たるだけで御の字だ。
そして三回目の〈神鳴る一太刀〉で気づいた。あいつは屍人なんだ、と。
動きに陵墓の時のような鋭さがない。ギクシャクしている。木人のどれかに操られ、自分の中で意識が葛藤しているのだ。
どの木人が操っているのかは見た目では分からない。うっかりその木人を倒したら元の動きに戻るかもしれない。やたらと倒さなくてよかった。ああ危ない。
あの動きなら私でも力で押しきれる。『雷光』を鍛錬したメイス、『魔鏡の盾』を鉄の盾に持ち替えて近接攻撃に切り替える。鉄の盾で剣を受け流し、重たい振りで堅い装甲を打ち砕く。
ついにあの騎士、撃破。今度は黙って沈んだ。“あの騎士”ではなんだかなぁ……
「ガル。あの騎士の名前は?」
「ありませんよ。正規のキャラではないんですから」
「では……『ミネルガード』というのはどうかな」
ミネルの体を守っていたからね。
「どうぞ勝手に呼んでください。勝てたら余裕ですね」
屍人の『ミネルガード』撃破! 報酬は……ない。ウラーも出ない。
しかし、周りの木人が明らかに動揺していた。動きが鈍くなっている。ミネルガードが“鍵”だったのは間違いないだろう。これは何体か倒すパターンかな。
次の鍵を求めて、棒立ちになった木人の間を走り出す。




