8.遊戯開戦
私は木人の大群に向かって砂浜を走った。
鏑矢の音で止まっていた大群が徐々に活動を再開し始めた。
最初に動き出したのがスピードのあるオオクマバチだ。毒針を持ち、人を軽々と持って飛べる大きさのハチが編隊を組んで向かってくる。
弓で一匹ずつ落とすのは面倒だ。タイミングをはかり、ジャンプして炎斬りでまとめて斬る。
群れの外側をうろうろしている屍人は無視して群れの中に踏み込む。
まき上がった砂と花粉のかすみの中から木人どもの姿が現れた。どれも梢は見上げるほど高く、奥から押し寄せるシルエットが重なると、まるで電信柱が乱立しているようだ。近くのものは枝を鞭のように振り回し、遠くのものは魔法の弾(枝に生った果実という様を呈している)を投げつけてくる。
四方から襲ってくる枝はロングソードで払いのけ、霰のように撃ち込まれる魔法の弾は〈黒蜘蛛のマント〉が自在に伸び縮みして跳ね返す。防げる魔法は低級なものだけだが矢のような軽い物理攻撃にも反応してくれる。
こいつを手に入れるには本当に苦労した。地下深くに巣くう蜘蛛の精にオルエンディー中の高級スイーツを携えて三顧の礼。土下座なんてリアルでは一度もやったことないというのに三回もやり、ようやく編んでくれることになってからの材料集め。世界中に隠れている黒蜘蛛を探し出して倒して糸を取るを何回繰り返したことか。だが、それだけやった価値のある超使える激レア品だった。
木人に操られた屍人の兵士や魔法使いも出てきた。外側にいる鈍い一般屍人と違って武器を持ち、それなりに戦闘力がある。囲まれないように動き回りながら対処する。そいつらを無力化しながら近づいた木人の幹に炎斬りを何回か浴びせると、体が燃えて金切り声をあげながら、再び狂気じみた動きで襲ってきた。
燃える木人をうまく誘導すると、他の木人や屍人にも火を点けることができる。
だが……めんどくさい。
奴らは燃え尽きるまで追ってくる。そのうち燃えながら走ってくる奴らとマラソンする羽目になる。ダイラーと戦った時のように、煙渦巻く中を走り回って、あたりを火の海にしていくが、ナマの木人どもはまだまだやってくる。これからどうしようかな。
突然大風が吹き荒れた。ダイラーの技だ。台風の最中に一瞬駆け抜けた最大瞬間風速がマラソンしていた木人どもの火をロウソクのように吹き消した。もう一度吹いた大風で消し炭になっていた木人は倒れた。遠くに移った飛び火はまだついているけれど。
「煙たい! 煙がジャマだ!」
どこかでダイラーの喚き声がする。
「花粉よりやばいだろ! 他の技でやってくれ!」
そっか。一人で遊んでいるんじゃなかったな。
「悪かった。やり方変えるから今の風もっかい頼む!」
返事代わりの強風が吹いた。マントの両端を握って風を摑まえて上空へ飛び上がる。眼下では木人の群れがまだまだ遠くまで続いている。ダイラーは思ったより近くにいた。二つの戦斧をふるって、押し寄せる木人や屍人を片っ端からなぎ倒している。真っ向勝負の力技だ。スタミナのない私にはちょっと疲れすぎる。
風に乗りながら武器を変えた。太刀『雷光』。これは一点物のお宝武器で、使える唯一の技は〈神鳴る一太刀〉。
マントから風を逃せば落ちていく。落下しながら、上段から振り下ろすとそこに轟雷が落ちる。
下にいた生の木人が真っ二つに裂けて倒れた。刃で斬るというより雷で裂く技なのだ。大技だけあってスキルポイントの消費は多いし、一定の間を置かないと二回目が出せないのだが、これならダイラーも文句ないだろうと思っていたら──
「それうるさいぞ! 耳がキーンてなったわ!」
「トカゲに耳があるのか!」
「あるわ! りっぱなのが!」
「これ以上ゆずらないからな。あいつらまだまだたっくさんいるんだぞ。一本一本丁寧にきってられねぇよ!」
「じゃあ、もっと離れてろ!」
また大風が吹いた。それに乗ってもっと遠くへ飛んで、雷と共に落ちる。飛ばなくても振り下ろせば落雷するんだけど、空から落とした方が気持ちいい。たまにあいつに近づいて風をもらおうかな。
屍人やハチは普通に切り、木人は雷で裂きながらとにかく進む。
敵はさくさく倒れていく。しかし、ぜんぜん終わりが見えてこない。
「ガルいる? これどこまで続いているんだ。さすがに多すぎだろう」
「わかりません。私たちが作った群れじゃありませんから。今アドバイスできることは、フィールドがどこまでも続いているということなら、どこまでも逃げることができるということぐらいでしょうか」
なんだそれはと呟きながら目の前の木人を倒すと、屍人にしては珍しく、重厚な鎧や盾を装備した騎士が現れた。
屍人らしく背中から新芽のような枝がにょきっとのびているが、それ以外はミネルバの陵墓で戦ったあのつよつよ騎士そっくりだ。
倒すのにどれだけ時間を割いたっけ。今までの高揚が一気に冷めていく。
ガル……ナイスアドバイス。




