7.たくさん見つけた!
投げた戦斧を拾ってきたダイラーは駆け足で戻ってきて、そのままナナシ港の男が指した方へ走って行った。
私も男にここにいるように言い、ダイラーの後を追う。近くまで来ると、ダイラーがちらりと振り向いた。
「なんだ。お前着替えたのか」
「相手は大勢の木人だそうだ」
「なるほどな」
〈木人〉というのはファンタジー用語でいうところの〈エント〉だ。根っこを足にして歩き、枝で直接攻撃したり魔法を使ったりしてくる。それに加え、個体によってハチの巣や花をつけているのが厄介だ。巣のハチは木人を守る。花をつけた個体は花粉をばらまき、それを吸った生き物を操る。木人のそばには必ず受粉されて操られている〈屍人〉となった兵士やハチがいるのだ。
プレイヤーも免疫力が低いと自由を奪われ、誰かに攻撃されるまで木人と散歩する羽目になる。攻撃以外で退屈な散歩を終わらせるには強制ログアウト(アプリ強制終了、ゲーム機を投げる、電池・電源を抜くなど媒体と心の荒れ具合により方法は様々だ)しかない。私は魔法防御力と免疫力を上げるため、口や鼻を覆う〈アサシンマスク〉や〈黒蜘蛛のマント〉を装備し、その色に合わせて他の防具も変えていた。
「そっちの花粉対策はいいのかよ。お前みたいなのが操られたら面倒なんだけど」
「もともとリザードマンは免疫高めだ。早めに倒せば問題ない」
潮の香りと共に足元から地響きが伝わってくるようになった。それがだんだん強くなってくると、私たちの顔も引き締まってきた。
森を抜けた。すぐ前からキャメル色のだだっ広い砂浜が広がり、はるか先の地平線近くで白波が立っている。
地響きのする方を向くと、花粉の煙をもうもうとさせながら木人の群れが動いていた。その規模は森が丸ごと移動していると言ってもいいくらいで、こんな大群は今までオルエンディ―ワールドを旅していて見たことがない。
隣りのダイラーもウーンと唸っている。いつの間にか大きな翡翠の胸飾りをつけていた。免疫力を上げるアクセサリーだ。
よくよく目を凝らすと、木人の群れの先を人が走っている。海に逃げようとしている人々を群れは追いかけているのだ。3人……いや、今1人転んで煙に飲まれてしまった。
ダイラーが叫んだ。
「おおーい! そのまま海へ走れー! ウラァァーー!!」
ダイラーのスキル〈雄たけび〉は音の弾となって群れに横っ腹にまっすぐ届き、木人の枝葉を乱した。
群れの動きが鈍り、私たちに気づいたオオクマバチの編隊が──体が力士ほどもある恰幅のいいハチだ──群れの斥候としてこちらに近づいてきた。
私は反射的に弓を構えた。ハチにはいつもそうしているからだ。ダイラーがフンと鼻をならした。
「お前はここで矢か魔法か撃ってていいんだぜ。木人どもは俺が切り倒してくるからよ」
「なんでだよ。これだけいれば的を取り合わなくてもいいだろうが」
ああそうか──私はピンときてついニヤリとした。
「そうか。ダイラーは私の援護がほしいんだな」
「はぁ? 誰がそんなこと言った!」
ダイラーは私に雄たけびの弾を出すのかと思ったくらいの大声を出した。
「こんなの俺一人で十分だ。花粉が怖かったらそこにいろって言ってんの! お前がラリっても困るんだよ!」
ダイラーは心配してくれているのか。意外と優しいやつなのかもしれない。だが、私としては状態異常の対処は事前にできるので、達人が待っているより戦いやすいのだ。木人とは何度も戦っている。あとは集団に囲まれないことに気をつければいいわけで、むしろワクワクしているくらいだ。
「素直じゃないな。でもそっちも一発撃ったし、私も一発だけくれてやる」
弦に〈惑いの鏑矢〉をつがえて放った。矢はオオクマバチを貫き、甲高くゆがんだ音をひいて群れの中に吸い込まれていった。この鏑矢の音を聞いた敵は混乱し、わずかな時間動きを止める。
「余計なことしやがって。だったらお互い好きにやろうぜ!」
そう言い残してダイラーは群れに飛び込んでいった。私に近づくときに使った〈突撃の加速〉を連続させ、あっという間に群れの中に入り込み嵐を起こす。
私も弓を剣に持ち替えて走り出した。どれだけ無双できるのか、すっごく楽しみだ。




