2.行き詰ったら前へ進め
「ちょっと待って! まだ何も解決してない!」
マントに入って二次元化しようとするガルをあわてて掴んだ。
「なにするんですか。大声出さなくても聞こえてるって──」
「大声出さなかったら帰ってるだろう。“ログアウト”が消えてる。ゲームが終われないんだ。なんとかしてくれ」
ガルをウィンドウの前に持っていって問題の個所を見せた。
「あー本当だ。これを復旧させろってことか」
ガルが縦長の虹彩でウィンドウの隅をじっと見つめる。しばらくすると、細かい鱗で覆われたぷっくりボディからだらだらと汗が流れだした。
「闇だ……闇が、広がっている……」
なんだって? ガルのこんな反応は初めてだ。
「重大な不具合かもしれない。仲間に報告したいです。時間ください」
「早くしてくれよ。確かめたいことがあるんだから」
「待っている間、これまでに倒した敵と戦うこともできるけど」
「しない。つかれた」
私はその場の石畳に座り込み大剣に寄りかかった。下ろしたガルはちょろりと這って崩れた闘技場の壁に張り付いて、そのまま動かなくなった。なにも起こらない、風も吹かない時間が流れる。ガルの周りで小さなウィンドウが魔法の花のように開いたり閉じたりするだけだ。だんだんいらいらしてきた。
「まだ? 電源切って強制終了させたらどこまでもどるの? セオリー通りならミネルヴァの陵墓の前からかな」
「もしくはイベントの始まった町から……かな。最悪レオパルトのデータが吹っ飛ぶかもって、みんなも言ってる」
「吹っ飛ぶって、そんなことあるのか」
「みんなもうまく解析できなくて、闇が広がっている……て、呟いている。でも、ログアウトは見つけたよ」
ガルが私のウィンドウのスキルツリーを開いた。黒っぽい背景の下、どのスキルともつながっていない部分が反転して、白い文字で『ログアウト』と浮かび上がった。ここに触れると「まだ手に入れていないスキルです」とアナウンスされる。
ここにあるということは、ログアウトが、スキル扱いになったってことなのか。
そうなった理由の解明はガル達に任せるとして、このゲームでスキルを手に入れるには「買う」「宝箱から取る」「敵から盗む」「敵を倒すかイベントをクリアした報酬としてもらう」という方法がある。レアなスキルはイベントのラスボスを倒した報酬となっていることが多い。
そういえば、あの騎士を倒して貰ったのはレベル上げやお金代わりに使える3000ウラーだけだった。あの強さにしては少ないが、他に報酬らしいものはもらっていない。もしかして、あんなに強くてもこのイベントのボスじゃないのか。ラスボスは他にいて、イベントはまだ終わっていないということなのか。ならば、進む道がどこかにあるはずだ。
立ち上がって、大剣で床や壁を叩いて回る。壁の一画に音が違う箇所があった。
色んな方法があるのだが、私の場合は、壁から少し離れて大剣を水平に構え、力を蓄える。
そしてスキル『貫通突き』!
剣と剣から出た衝撃波が壁の一点に集中し、亀裂がはしって崩壊した。崩れた石壁の暗闇に新たな洞窟がのびていた。
「ガル。道を見つけた。先に行くからな」
「えー! なにそれ。ちょっと待って!」
ガルが大声をあげている。いい気味だ。
リュックからたいまつを出して火を点け、洞窟に入った。魔法の明かりを点すこともできるが、こっちの方が雰囲気があって好きだ。
背中がもぞもぞして、ガルが肩まで上がってきた。この世界でガルは体の一部だ。
「こんな洞窟地図にはないよ。もともとミネルヴァの陵墓自体ないんだけど。行くの? まだ謎がぜんぜん解決していないんだよ」
「レアイベントをここまで進めたんだぞ。行くに決まっているだろう」
洞窟はほぼ一本道だった。多少上がったり下がったりするものの脇道もなく、襲ってくる敵もおらず、時々蝙蝠が頭の上を飛ぶくらいで、そいつらを斬っても10ウラーにしかならない。
やがて、出口の光が現れた。
洞窟を抜け出る前に忍び足でそっと顔を出すと、外には待ち伏せも罠もないようだった。そこは開けた山の麓で、目の前には森が広がっていた。
地図を開くと、現在位置は大陸の端っこの雲に隠されている所だった。




