10.鍵の手がかりを探して
鍵の手がかりを探して、まだ動きが活発な木人集団の間をさ迷っていると、
「うぎゃー!」
ダイラーの悲鳴が聞こえた。
「なんであんたがここにいるんでございますかぁー!!」
うんうん。ショックでそんな言葉使いにもなるよな。あの強さはトラウマものだよ。
声のした方へ駆けていくと、倒された木人が累々と積み上がった広場で、私が『ミネルガード』と名付けたばかりの騎士とダイラーが対峙していた。まだ互いの間合いに入らない位置で動けなくなっている。
私はダイラーの背後から気迫で押し返されそうになる距離まで近づいた。
「ダイラー、その騎士は屍人なんだ。動きは鈍いぞ」
「わかってる!」ダイラーは騎士から目を離さず応えた。「手を出すなよ」
さっきの悲鳴がウソのような落ち着いた声だ。
ダイラーが二つの戦斧を振り〈突風〉を飛ばした。微妙にタイミングを変えた二つの風をミネルガードは左右に避ける。避けたところにダイラーが斧をクロスさせて体当たり。ミネルガードは盾で受け流し、ダイラーは態勢を崩しかけたがふんばって、斧と剣の乱打戦が始まった。
戦う二人に周りの木人どもが反応した。ダイラー目掛けて魔法の弾を飛ばしてくる。
私は魔鏡の盾で魔法の弾を防ぎ〈神鳴る一太刀〉で木人を倒してダイラーの戦場を守る。「手をだすな」と言われたが魔法で邪魔されたくはないだろう。
ミネルガードが距離をとるとダイラーは追いかけていく。〈双斧断撃嵐〉も出した。しかし、ミネルガードの体力を大きく削ることはできない。むしろダイラーの傷が増えていく。ミネルガードはダイラーの力をうまくいなし、隙ができたところに打ち込んでいる。私の時とは戦い方を変えている。それはともかく、動きがそれほど鈍くない。なぜだ。
観察していると、屍人の印である背中の枝がだいぶ短いことに気づいた。花粉が足りなくて“操られ度合”が少ないのか。ダイラーが花粉を飛ばす木人を率先して倒してしまったのかもしれない。
急いで花粉を飛ばすタイプを探す。見つけては適度に攻撃すると私にターゲットを向け、花粉をばらまきながら私を追いかけてくる。木人を何体も引き連れて私が走って戻ってくると、ダイラーの戦場に濃厚な花粉の煙が漂いだした。すると、思った通りミネルガードの枝がにょきにょきとのびてきて、同時に動きが遅くなり、剣の振りも弱くなってきた。
ついにダイラーの連撃がミネルガードを捉え、最後は頭から真っ二つにして倒した。
肩で息をしているダイラーが、消えたミネルガードの跡を見つめながら呟いた。
「急に様子がおかしくなったぞ……なんでだ」
「わかってなかったのか。この騎士は屍人状態だから、花粉が濃くなると木人の支配力が強まって混乱するんだよ。だから花粉の木人を連れてきたんだ」
「なんだと。手を出すなといったろう」
「落ち着け。ここでダイラーが負けたら次に進めないんだよ。あの騎士は鍵だ。倒せば何かが起こるはずだ」
「なんで負けるって決めつけるんだよ。俺は負けねえ。負けてもまた来て最後には勝つ!」
「それが難しい場所じゃないか」
「でもこれじゃあお前が勝ったみたいじゃないか! ああちくしょー! もやもやするー!」
ダイラーが頭を抱えながら地団駄を踏んだ。
しまったな。見守るだけにしておけばよかったか。でもダイラーが消えたあとで、一人で健康な騎士を倒せる自信はないんだよなぁ……
悔しがるダイラーの背中からにょきっと若い芽が生えてきた。慌てて芽を掴んでぶちっと引っこ抜いた。花粉の濃度がダイラーの状態異常耐性を越えてきたようだ。イラついて暴れる屍人は勘弁してほしい。
「ほらダイラー、屍人になりかけてる! 魔法……薬は持ってないのか」
不機嫌顔のダイラーが手から薬瓶を出して(アイテムボックスから所持品を出すと周りからは突然モノが現れたように見える)ヤケ酒のようにラッパ飲みした。
「それで、これから何が起こるって?」
私は周りを見渡した。私がミネルガードを倒した時のように木人は動かなくなっている。いや、この周りだけじゃない。今度は木人の森全体が立ち止まり静まり返っている。
私とダイラーは背中合わせになって武器を構え、固唾をのんだ。
森は奥で静かに動いていた。私たちのそばの木人や屍人たちを残し、木人たちは音もなく奥へどんどん引っ込んでいっていた。
突然地面が唸り、波打ち始めた。倒れないように踏ん張る私たちの前で、奥から森が束ねられ、湧き上がり、足元の木人たちを巻きこんで太くなりながら空へとどんどん伸びていく。
あっという間に天を突くような巨大な大木が立ちふさがった。幹の皮はゴツゴツとした竜の鱗のようで、見上げれば梢はかすんで見えず、その霞は途中の枝に付いた花が吹く花粉でできていた。霧の中の縄文杉に似ているなと思ったが、どんなに有名な巨木でも幹回りを一周するのに何百人要るということはないだろう。まるで城のような巨木だ。
ダイラーと一緒に見上げたまま大口を開けていると、後ろからモブの声がした。
「ももも森の神様が現れたー!」
森で会ったナナシ港の木こりがこんな所まで来ていた。口元を布で覆った木こりが私たちをウルウルした目で見ながら言った。
「あんなに花粉をばらまかれたら、向こうにあるナナシ港が……いや、世界中が屍人だらけになってしまいますだー」
なんという強引なシナリオ。木こりをここまで呼んで説明させるとは!
「まさかあいつ、俺の斧で切り倒せとか言うんじゃないだろうな」
「ダイラー……斧、何本持ってる?」
「うそだろ。港をぶっ壊したほうが絶対早いって」
冗談はさておき、クエストの主人公としては無視できないわけだが、こんなデカブツどうしたらいいんだ。




