1.イベントはクリアしたけど問題発生
最後の敵は、このゲーム最強の騎士だった。
隠れボスの中でも出現にはランダム要素が多いのではと噂される激レアで、攻略情報も少ない……というか、どこも「弱点なし。勝つにはプレイヤーの腕しかない」という。
動画でもみんなそれぞれの武器・魔法で激戦を繰り広げており、「こうしたら緩く勝てますよ」という紹介動画がいまだに出てこない。人型なのに。怪物じみた真のラスボス。
一応これでもエンディングまで進めたレベルだったんだけど、まったく歯が立たず、ボスルーム前のリセットポイントまで戻されるを繰り返す。
敗れるたびにレベルを上げ、新しいスキルを取得して再挑戦。
レベルは推奨レベルの1.5倍にもなり、スキルはとうとう全てを手に入れた(レベル上げついでにとったからね)。
もう分かると思うけど、私はRPGは好きでもアクションは苦手なほう。でも、この「オルエンディー・ワールド」は世界の先が見たくて、シナリオ勧めたくて、幾度も足踏みしながらここまでやって来た。
だからさ、何度倒されたって諦める選択肢選ぶわけない。死んで強くなれるなら、何度だって死んでやる。
なんとか長く剣戟できるようになり、丁々発止と火花を散らす。
そして、夢中で振った一太刀が相手の胴をかすめたところで、その時が来た。
騎士が膝をついた。
気づいたのは倒れた相手を二三回切ってから。
や、やったぞ……
剣を支えに天を仰いだ騎士が塵となり、静かに言葉がこだまする。
「これで真の扉は開かれる。勇者よ、世界を踏破してみよ……」
感無量。これは周りに自慢できる。もうアクションは下手ですって言わないでおこう。
しばらく茫然として動かないでいると、闘技場の隅でずっと待機していたNPCが近づいてきた。
「ありがとうレオパルト。これで本当の体を取り戻すことができます」
「いえいえ、こちらもずっとお世話になっていましたから」
ミネルはゲームを始めてすぐ冒険者ギルドでスカウトしたサポートキャラで、今まで一度もパーティーから外すことなく一緒にいた子だ。
軽装の地味な魔法使いだったミネルが霧になると、正面に立っていた女神の石像が色を帯びて生気が蘇ってきた。神々しい姿になったミネルがふわりと宙に浮き、魔法のサークルに囲まれた。
「さようなら。私も、これから自分だけの冒険を始めに行きます」
「さよなら。またどこかで会おう」
私が手を振ると、ミネルはふっと不思議な笑みを浮かべて消えた。嬉しそうな、泣きだしそうな……
私はもちろん泣きそうになっていた。人生も半ばに差し掛かると、涙腺が緩くなるもんだ。
天をあおいでそのまま余韻に浸る。
楽しかったな。ミネルにこんなイベントがあったのも知らなかったけど、まさかあの騎士がミネルのイベントで出てくるなんて。これはまだ広まっていない情報じゃないか。確かめなくては。もし、そうだったら……なんかいい事ありそうだ。
右手で指を鳴らす。目の前にコマンドウィンドウが開く。一番下に視線を落とすと、そこの“ログアウト”コマンドが反応して「ログアウトしますか?」と訊いてくる。いつもは。
今日は……訊いてこない。早く出たいのに。よく見れば“ログアウト”がない。バグか。なんてこった。
「おおーい、ガル。ヘルプ、ヘルプー!」
「大声出さなくても聞こえてるよ」
背中から不機嫌な声がして、肩にマントの下からひょっこりと尖った爬虫類の顔が出てきた。
これが私の冒険者支援AI。プレイヤーと運営側をつなぐ役割も担っている。
外見と名前はこちらがデザインできる。私は角があって竜っぽくて愛嬌のある爬虫類の画像を取り込んだ。ガーゴイルゲッコーという種類で、壁をチョロチョロ這える手で防具のどこかに張り付いている。用のないときは絵記号になっているから重くもない。
「また道に迷ったの? それともまた敵が強すぎるっていう苦情? それ愚痴だよね。うちのゲームやっててそりゃないよね。オッケー? 解決した?」
口の利き方はデザインできなかった。最初はもう少し丁寧だった気もするけど。




