第3話
ヤバイ、北川さんにハルトだってバレた。
どうする?
「宮下くんがハルトくん?」
「エット、ナンノコトカナ?」
「とぼけないで」
「キット、ヒトチガイダヨ」
「ふーん、人違いね」
光希は翔の前髪を上げ、顔を近付ける。
「ごめんなさい、そうです。俺がゲーム実況者のハルトです。」
「どうして隠してたの?」
「有名になって、悪目立ちするの嫌だったから、学校では陰キャとして過ごそうと」
「そうだったんだ。確かにそうだよね。100万人越えの有名配信者だもんね。」
「そうなんだ。わかってくれた?じゃあ、このことは黙っててもらえると嬉しい。北川さんの事情は絶対に喋らないから。じゃあ俺はそろそろ行くね。」
そう言って、翔はこの場から立ち去ろうとする。
「ねぇ、宮下くん、どこ行くのかな?」
「いや、あの」
「私の悩み聞いてくれたよね?」
「そう、ですね」
「好きな人と結婚すればいいんじゃない?って言ってくれたよね?」
「俺、そんなこと言ったかな?」
光希はスマホの動画を再生する
「好きな人がいるなら、その人と結婚してしまえばいいんじゃないかな?」
「北川さん、一旦落ち着こう。焦ったっていい答えが出るわけじゃない。」
「宮下くん、私と結婚して下さい。」
「ごめんなさい」
「なんで?私からの告白なら断る人いないって言ったの宮下くんだよ?」
「それはその、北川さんの事情が事情だし」
「わかった。」
「わかってくれた?」
「私が宮下くんにフラれたって、みんな言いふらす」
「ちょっと待って、そんなことされたら」
「じゃあ、私と結婚して」
「無理だって」
「結婚してくれないなら、ハルトくんの正体と今までの会話をSNSで拡散する」
「ちょっと待って、正体バラすのはやめて、それに今までの会話って何?」
「ハルトく、いや宮下くんが言ったんでしょ?音声とか録画しておけばいいって、それから私、いつもボイスレコーダー持ち歩くようにしているの」
「完全に詰んだ」
「それで宮下くん、正体バラされたくなかったら、私と結婚してくれるよね?」
「ごめん、流石に結婚までは出来ないよ。」
「それって、私が宮下くんのタイプじゃないから?」
「いや、その北川さんは凄く美人だし、俺のタイプではあるんだけど」
「じゃあ」
「でも北川さんの事情知っちゃったからさ」
光希は翔の言葉に冷静になる。
「そうだよね、いくらタイプでも、あんな事情を知って、私と結婚してくれる人なんていないよね。私の我儘を押し通そうとして、ごめんなさい。宮下くんの弱みにつけ込んで結婚してなんて最低だよね。私」
「北川さん」
「安心して、宮下くんがハルトくんだってことは黙ってるから」
「うん。」
「もう諦めて、あの人と結婚するしかないのかな?好きでもない人と結婚して、好きでもない人の赤ちゃんなんて産みたくないよ。」
光希は一雫の涙を流す
あー罪悪感が凄い。
でも高校生で結婚はなぁ
かといって事情を知った以上、このまま北川さんを放っておけないし
それに彼女に希望を与えたのは俺だ。
なら俺に出来ることはやろう。
「北川さん、まだ諦めないで、高校卒業までに、なんとか解決出来るよう俺も協力するから」
「協力?」
「これでも俺は登録者100万人越えの有名配信者だ。配信で相談して、解決策を考える。ライブ配信だと軽く70万人は集まるんだ、それだけいればなんとかなるよ。」
「ありがとう。宮下くん。それでも解決策が見つからなかったら……」
「そうだね、その時は俺が結婚するよ。」
「へっ?結婚してくれるの?私と」
光希は翔の言葉に驚く。
「北川さんに希望を与えたのは俺だから、それにそのまま放っておくのは後味悪いし」
「ありがとう。宮下くん、私凄く嬉しい。」
「言っとくけど、結婚はあくまで最終手段だからね。俺の目的は婚約破棄に持ち込んで、北川さんに好きな人と結婚出来るようにすることだから」
「私としてはこのまま翔くんと結婚でもいいんだけど」
「だからダメだって」
「えーなんでダメなの?これってプロポーズだよね?もう私達、恋人も同然だよね?」
「俺と君の関係は友達、それ以上でもそれ以下でもない。」
「えっ、なんで友達なの?最終的には私と結婚してくれるんでしょ?じゃあ、恋人でもいいじゃん?」
「北川さん、わかってる?もし君の両親に俺達が恋人だってバレたら、別れさせられて、それこそ好きでもないその人と結婚させられるよ?」
「でも、憧れだったハルトくんのお嫁さんになれるんだよ。それに結婚するまでに恋人らしいこと、いっぱいしたいじゃん」
「じゃあ、この話はなしにするけどいい?」
「待って、待って、我慢するから、言うこと聞くから」
翔は手を差し出す。
「これからよろしく」
光希はその手に握る。
「不束者ですが末永くよろしくお願いします。」
「だから、友達だって」
「いいでしょ?最後は結婚するんだし」
「北川さん、俺と結婚することが目的になってない?」
予鈴のチャイムがなった。
「昼休みも終わるし、教室戻ろっか」
「うん」
光希は翔に抱きつく
「何してるの?」
「抱きついてるんだけど」
「友達はこういうことしません」
「ケチ、じゃあ、腕組むのは?」
「ダメ」
「手を繋いで歩くとか」
「ダメ」
「じゃあ、なんならいいの?」
「今は名前呼びだけで、わかった?光希さん」
「うん」
「なんで顔を赤らめてるの?」
「いや、その好きな人に名前呼ばれるのってこんなに嬉しいだなって思って」
「北川さんに戻そうか?」
「光希でお願い。出来れば、さん付けもなしで」
「いきなり、呼び捨てはいろいろ疑われるから、当分は光希さんで」
「わかった。私は翔くんって呼ぶね」
「OK」
「そうだ忘れてた。連絡先交換しないと」
「ああ、そうだね」
スマホを取り出し連絡先を交換する。
光希は嬉しそうな顔をする。
「それじゃあ、教室に戻ろう」
「ちょっと待って」
「何?」
「翔くんの髪戻さないとみんなにバレる。」
「ああ、そうだった。」
翔は髪を戻す。
「翔くん、絶対ハルトだってバレないでよ?」
「バラすつもりないけど、どうして?」
「女子達の間では人気あるから、もしバレたら翔くんに告白する人も出てくるかもしれないし」
「マジで?」
「ねぇ、私が結婚してって言った時は嫌そうな顔してたのに、なんでそんなに嬉しそうなわけ?」
「光希さんにあんな事情がなければ、素直に喜んでたよ。」
「ダメだからね。翔くんは私と結婚するんだから、他の人のところに行っちゃダメだからね。」
「はいはい。」
「なんで適当なの?」
「だって俺達の関係は友達だろ?」
「それはそうだけど」
「それより授業に遅刻するから急ぐよ」
「待ってよ。翔くん」
そうして2人の物語は始まった。