第2話
落ち着け、俺
今、北川さんはなんて言った?
一目惚れした相手はハルト
OK、OK。
北川さんはゲーム実況者のハルトに惚れたんだ、翔ではない。
まだ慌てる時じゃない。
北川さんはハルトの正体が俺だと気付いてない。
もし正体がバレたら、俺は大変なことに巻き込まれるはず
なら、ここは他人のフリをしよう。
「あー、ゲーム実況者のハルトね、流石に無理だな。うん」
「だよね。わかってる。」
うわぁ、なんか北川さん凄く落ち込んでる。
「え〜と、北川さんはそのハルトのどこに惚れたの?」
光希の顔が明るくなった。
「聞きたい?聞きたいよね?」
うわぁ北川さんめちゃくちゃ話したそうだ
「そうだね。聞いてみたいかな?」
「まず顔ね」
うん、なんとなくそんな気はした。
「それと優しい声」
そういえば何人かASARやって欲しいとかコメント来てたような
「あとは私と同い年なのに、一人暮らしして、料理も得意で、ゲームばかりしてる感じなのに勉強も出来るところかな」
一人暮らしなのは両親が海外にいるからだし、料理は母さんに教えられたからで、勉強は成績下がるとゲーム機取り上げられるからだしな。
「へぇー、そうなんだ」
「そうなの。でもそれだけじゃないんだ。」
「なにかあるの?」
「ハルトくんに質問する配信あるじゃない?」
「あったね。」
コメント流れるの早くて、目についたのしか読めないやつか
「それでさ、私の悩み聞いてもらったんだよね。」
ん?ちょっと待って、俺が北川さんの悩みに何か言ったの?ダメだ。いつのことか全く思い出せない。
「これ、なんだ。」
光希はスマホを操作して動画を再生する。
「え〜と、HIKARIさんのお悩み『親からこの人と結婚しろって言われてて、その相手とどうしても結婚したくなかったら、どうしたらいいですか?』、なんか重い悩みだね。もう全力で逃げるしかないと思う。もし好きな人がいるなら、その人と結婚してしまえばいいんじゃないかな?婚約破棄がどうこう言ったって親が勝手に決めただけのことで本人の同意は得てないし、最終手段は映像とか音声を録音して、SNSで拡散させるのも一つの手かな。今の時代、下手なこと言うと大炎上して、社会的に死ぬしね。」
ちょっと待て、あの時の俺
北川さんになんてこと言ってんだ!
他人事だと思って、好きな人と結婚すればいいとか言ったけど、これ政略結婚だったわけで、外野がどうこう言うレベルの話じゃないじゃん。
「これ聞いてさ、もしかしたら、あいつと結婚しなくてもいい未来があるのかもって思って、希望持てたんだよね。もしその相手がハルトくんだったらいいなって」
ダメだ。北川さん、完全にハルトに惚れてる。
かと言って、事情を知ってしまった以上、放っておくのも可哀想だし。
ハルトの正体明かして、俺が北川さんと結婚は…
わざわざ地雷踏みに行くようなものだしな。
北川さんを救う方法はアレしかないな。
「あのさ、北川さんって誕生日いつ?」
「急に何?7月7日だけど」
「ということは今4月だから、後1年と3ヶ月か」
「宮下くん、意味わからないんだけど」
「北川さん、18歳になれば親の同意なしで結婚出来るって知ってるよね?」
「それは知ってるけど」
「なら親に黙って、卒業するまでに好きな人と結婚するしかない。」
「そんな急に言われても」
「逃げるっていうのも手だけど、高校生じゃ金銭的にも限界があるし、捜索願いとか出されても厄介だしね」
「でも私の結婚したいような人ってこの学校じゃいないし、ハルトくんは憧れみたいなものだし」
「この高校の男子生徒全滅ですか。じゃあ、大学の先輩とか誰かいないの?」
「宮下くん、そんなのいるわけないじゃない。」
「ですよねー」
完全に詰んだ。
「ねぇ、宮下くん、私、あの人と結婚するしかないのかな?嫌だよ。」
光希の体が震えていた。
「それは…」
その時、突風が吹いた。
その風で翔の髪の毛が乱れる。
「強い風だったな。北川さん、大丈夫?」
「えっ!?」
「北川さん、どうかしたの?」
「ハルトくん?」
「ハルト?」
その瞬間、翔は正体がバレたことに気付いた。