第1話
翔はパソコンの電源を入れ、配信の準備を始める。
「よし始めるか」
翔は深呼吸をし、ゲーム実況者ハルトの顔になった。
そして配信をスタートさせる。
「みなさん、こんばんは。ハルトです。今日もゲーム実況始めて行きたいと思います。今回はリクエストが多かった、アレどうやって倒すの?っていう攻略動画です。攻撃のタイミングとか避け方とかもわかりやすく説明しようと思いますので、楽しんで下さいね。では最初は装備の説明から始めましょうか」
翔は高校受験に合格してから、ゲーム実況を始めた。
ハルトという名前は翔という漢字を『しょう』ではなく『ハルト』と読んだだけという単純なものだったわけだが翔はその名前を気に入っている。
父親譲りのトーク技術と母親譲りの顔立ちをしていたため、髪を整えて配信した結果、あっという間にイケメン実況者として有名になった。
登録者が増えたことで収益化することが出来て、そのお金で新しいゲームを買ったりと小遣い稼ぎをしていた。
高校では悪目立ちしたくなかったため、髪を整えず、陰キャを装い過ごしていたのだが
「それでは今日の配信はこれで終わりです。また見て下さいね。」
配信を終了した翔はパソコンの電源を落とし、眠りについた。
高校一年生の秋頃、父の海外赴任が決まった。
父は出世コースに乗ったことで喜んでいたが問題点が一つ、仕事は出来るが生活能力はほぼゼロである。
カップ麺にお湯を注ぐか、レンジでチンするのがやっとである。
父と母は幼馴染で、結婚した理由を聞いたら、お父さんは私がいないとたぶん死ぬとのこと
そんな生活能力皆無の父のために母が父について行くことになり、一人暮らしを始めることになった。
小さい頃から「お父さんのようになっちゃダメよ」と母親から家事全般を教えられていたので、特に問題はなかった。
そして高校二年になった。
翔は昼休みになると誰もいない校舎の非常階段で、自分の配信を見ながら、反省点や改善点を考えながら過ごすというのが日課になっていた。
その日もいつものように非常階段を登って、お昼にしようと思っていたらそこに先客がいた。
「北川さん?」
北川光希
この学年一の美少女と言われている同じクラスの同級生
彼女に告白した男子生徒は全員フラれたらしい。
「えっと、宮下くんだっけ?」
「ああ、うん」
翔は北川光希の目から涙が流れているのに気付いた。
ポケットからハンカチを取り出し、光希にバンダイを渡す。
「北川さん、俺どっか行くから、邪魔しちゃってごめんね。」
「宮下くん、ごめん。私がどっか行くから」
「いいよ。北川さんはここにいて、泣きたくなる程、嫌なことでもあったんでしょ?」
「それは…」
「普段の北川さんって笑顔しか見たことないし、そんな顔を誰かに見られたら、みんな心配すると思うから」
「ありがとう。宮下くん」
「それじゃあ」
翔は階段を降りようとすると光希に止められた。
「宮下くんは私が泣いてた理由、気にならないの?」
「気にならないわけじゃないけど、詮索するのは違うと思うから」
「ねぇ、宮下くん、私の話聞いてもらっていい?」
「そういうのは友達に聞いてもらったら?」
「本当はそうしたいんだけどね。」
光希は言葉に詰まる。
「わかった。赤の他人の方が話しやすいこともあるし、ここで会ったのも何かの縁だろうから、話くらい聞くよ。北川さん」
「ありがとう、宮下くん」
そうして光希は語り出した。
「ねぇ宮下くんはKITAGAWAコーポレーションって会社知ってる?」
「知ってる。俺もそのメーカーのテレビとか使ってるし」
「私ね、そこの会社の社長令嬢なんだよね。」
「はっ、社長令嬢!?」
「驚くよね」
「まぁ当然というか」
「でさ、事業拡大のためにって、父の会社と同じ業種の会社の御曹司と無理矢理、婚約させられてさ」
「婚約?」
「そう、私は恋愛結婚がいいのに」
「親には言ったの?」
「言ったけど、聞く耳持たなかった。」
「その婚約者って?」
「会うたびに私の体を気持ち悪い目で見てくる嫌な人」
「ああ、それはなんというか」
「ねぇ男子ってなんで、みんな女の子の体を嫌らしい目で見てくるの?」
「あの一応、俺も男なんだけど」
「そうだったね。でも宮下くんって私のことそういう目で見ないよね?他のクラスの男子は見てくるのに」
「姉さんにいろいろ言われたから、見ないようにしてるだけ」
「なるほど、でも心の中では思ってると?」
「怒るよ?それで、その人と結婚が嫌で泣いてたと?」
「うん。高校卒業したら結婚させられるから」
そう言い光希は俯いた。
「北川さんって好きな人いないの?」
「私の好きな人?」
「美人な北川さんから告白されたら、断る人なんていないでしょ?結婚したくないなら、その人と駆け落ちでもすればいいんじゃない?」
「駆け落ちかぁ、そうだね。」
光希は頬を赤らめる。
「その顔は誰か好きな人いるんだね。」
「一目惚れした人はいるよ。」
「じゃあ、その人に告白すればいいじゃん」
「無理」
「なんで?」
「名前もわからないし、どこに住んでるかもわからない」
「その人と会った場所で待ってたら、そのうち会えるんじゃない?」
「無理」
「どこか遠い場所で会ったの?」
「違う。」
光希はスマホを取り出し、画面を翔に見せる。
そこに映っていたのはゲーム実況者のハルトであった。
「私が一目惚れしたのは、ハルトくんなの。」




