表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メモリアルジュエリー  作者: みずもと あす
File3.3カラルの林檎
9/11

3カラルの林檎.2

 骨董市でトーズと逸れてから…、もとい撒かれてから、俺とアディマンは買えもしない金額ばかりの店をあちこち眺めるだけになった。


「あいつホントに仕事しに来たのか?いいように言って連れ出したくせに、俺たちだけじゃメモリアルジュエリーどころか普通の宝石すら見分けがつかないぞ…」


「さっきの林檎もそうだけど、一瞬でオレの給料が吹き飛ぶようなモンばっかだよ。こりゃあ確かにあのおっさんが言った通り、庶民が来るような場所じゃなかったかもなぁ」


 アディマンが頭を掻きながら苦笑いをする。

 せめて生活用品が売ってるエリアならましかもしれないが、そこは俺たちのような庶民で大混雑している。

 特に目当ての物もないウインドウショッピングを楽しむだけなら、比較的人の少ない骨董市の方がいいだろうと時間をつぶしているのだった。


「にしてもあの男、本当に3カラルもするあの林檎買ったのか?やっぱりボンボンは違う…」


「お前が盗ったんじゃなきゃ誰がやったつーんだよ!!!」


「!?」


 店の品物を物色しながら駄弁っていると、突然通りの向かいの店から怒鳴り声が聞こえて来た。


 声に聞き覚えがあるような気がして覗いてみると、例の林檎の店にいた小太りの男が、他の客であろう男の胸倉をつかんでいた。



「お前ずっとおれのそばを付きまとってたよな!?お前がおれの金を盗んだんだろ!!そうじゃなきゃ説明がつかん!!!」


「誤解です!わたしは金なんて盗ってない!!たまたま同じ店にいただけじゃないですか!?」



 男たちの大声に気づいてすでに野次馬が集まりだしている。中心にいる二人の男の話を聞くに、どうやら窃盗事件があったらしい。


 盗まれたと騒いでいる小太りの男が被害者なんだろうが、あの男の財布に入ってた金なら一体いくらするんだ…。


 見るからに金持ちだとわかる格好をしているのだから、狙われることの危機感くらい持っておいてほしいものだが、盗んだ方もこんな人通りの多いとこで騒ぎを起こさないでほしい。



 関わり合いにはなりたくないため野次馬の輪を抜けて退散しようと思ったその時、ひとりの老人が男たちに話かけた。



「ちょっとすみません。私は隣の店にいた客なのですが、私が見るに、そちらの男性はあなたの持ち物には指一本触れていませんでしたよ?

 あなたが財布を取り出して初めて金がないことに気づいたのであれば、最後に財布を取り出した場所で盗まれたのでは?」



 老人は至極冷静な口調で、それでいて暖かい声で話す。

 ロングコートを着てステッキを持っており、ホンブルグハットの下からは見事なロマンスグレーの髪が覗いている。

 刻まれたしわと穏やかな笑窪が知的な印象を残す、そんな男だった。



「その人の言うとおりです!わたしは本当に、あなたの金なんて盗んでない!」


 胸倉を掴まれていた男が半泣きで弁解する。

 するとようやく諦めたのか、小太りの男が舌打ちをして手を放す。


「あなたが最後に買い物をした店はどこです?もしかしたらその店の者か、客に盗まれてしまったのかもしれません」


「最後に買い物をしたのは、ストリートの入り口近くの店で黄金の林檎を買ったのが最後で……あ!!!」


 小太りの男が顎に手を当てて考えながら周囲を見渡し、


 目が合った。


 まずいと思って逃げようとしたときには遅かった。


「そいつら!!そこのガキとヒョロガリの男!そいつらもその店にいたぞ!!まさかお前らじゃねーだろうなぁ!!!???」


「はぁ!?」


 大声を上げて俺たちを指さし、また男は騒ぎ始める。

 やっぱり早々に立ち去るべきだった…。のんきに野次馬なんてやってる場合じゃなかった。



「なんでそうなるんだ!?俺たちはお前に追い払われて店から去っただろ!?」


「いーやお前たちしかいない!!あそこの店主とはちゃんとした取引をしたんだ。金額が間違ってるはずがない!追い払ったおれのことが気に食わなくて盗んだんだろ!?」


「やるわけないだろ!?」


 男のことが気に食わないのは否定しない…。だがだからと言って疑いをかけられても困る。


 俺と男が言い合っている横でアディマンがひたすらあわあわやってるのを、さっきの老人が訝しげに見つめている。


「まあ、なにも彼らがあなたの金を盗んだという証拠はないのです。

 どうです?ひとまずその黄金の林檎の店に行ってみませんか?店主を交えて話してみれば、疑わしい人物が出てくるかもしれませんよ?」


 老人が濃紫の瞳を細めて促す。

 どんどん容疑者が増えているような気もするが、この爺さんほんとに大丈夫か…?


 というか、当然のように俺たちが疑われる流れになっているんだが。


「どーすんだよアニータ!?」


「…犯人がわからないと解放してくれないだろうな…。これ以上疑われないためにも、一緒に行くしかないだろう」


 アディマンは心底不安そうな表情を浮かべているが、こちらは本当に何にもやっていないのだ。

 どうにかして弁解するしかない。



 そうして俺たちは、今日一番に立ち寄った店、3カラルの林檎を売っていた店に戻ることになった。

後書きにしました

投稿期間が空いてしまい申し訳ない気持ちが半分、自己満創作なんだから読んでる人がいるかどうかも怪しいなと思う気持ちが半分なかんじです。


ゆっくりでも完結までいけたらいいなーと思っております!まだまだやりたい話はあるので!



↓イラストとか投稿してるXアカウント

https://x.com/mizumoto_create?s=21

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ