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メモリアルジュエリー  作者: みずもと あす
File2.物忘れ症候群
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物忘れ症候群.2

物忘れ症候群その2です。

思ってた以上に複雑になってきてしまいましたが、一緒に謎解きしてくれると嬉しいです…。

わかりやすく説明できる語彙力が欲しい。

 

 “物忘れ症候群”


 記憶屋アルバムの配送業者、アディマンが言い出した噂はここ最近流行りだしたものだという。


「街を一人で歩いていると、突然()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことがあるんだと。


 忘れるのは過去10分間の記憶。


 だからその10分の間にやっていたことがわからなくなって、なんで外出してきたのかもわからなくなる人もいるらしいんだ。」


 アディマンが眉間にしわを寄せて、いかにも深刻そうに話す。


「…それは…、単なる物忘れじゃないのか?」


「そうよ、いくら何でもそれだけで変換術師の仕業とまではいかないんじゃない?

 さっきまで自分がしようとしていたことがなんだったかわからなくなるなんて、日常生活でいくらでもあるとおもうけれど。」


 俺がアディマンに聞くと隣のクオリアも頷いた。

 だがアディマンは頑なに首を横に振る。


「でもよー、あの几帳面で抜かりのない菓子屋のおっちゃんまでもが被害にあってんだぞ?

 オレはあの人がそんな物忘れをするだなんて信じらんないぜ。」


 菓子屋のおっちゃんが何者なのかは知らないが、アディマンにとってその人物が物忘れをするというのは一大事らしい…。



「まあしかし、噂になるほど何人も“物忘れ症候群”になっているようなら、調べてみる価値はあるかもしれませんね。どうします?お客人。」


 ここまでアディマンの話を割と真面目に聞いていたらしいトーズが言った。

 確かにただの噂話だと切り捨てて、後から後悔するようなことになっては困る。少なくともこの3日はなにも犯人に繋がる収穫がないのだ。

 多少なりとも変換術が関わっていそうなら、探ってみるべきかもしれない…。



「そういえば、お二人は仕事の方は良いのですか?」


「え?うわッまずい!!あたしもう店に戻らないと!じゃあまたね!」


「オレも仕事に戻るか。これからセントラルの方まで荷物を取りに行かなきゃなんねーんだ。じゃあな、お二人さん。」


「ああ、それじゃあまた。」


 時刻は午後1時をまわるころ。壁掛け時計が鐘を鳴らす前に、トーズの呼びかけで時間を確認したクオリアが真っ先に飛び出していった。

 続いてアディマンも店から出ると、間もなくして車の音が過ぎ去っていった。









「”バズファクト”は本来は川を挟んだ向こう側の都市、セントラル地区の一角に当たるのですが、小さな街で西は川、東、南には海が面していることもあって陸の孤島と化しており、セントラルとはまた違った独自の文化や生活スタイルが築かれています。」


 街を調査するにあたって、まず俺はこの街の地図を知らない。そのためトーズからこの街、バスファクトについて教えてもらうことにした。

 店の中心に備え付けられた、最初にトーズと話したときに座らされた丸テーブルに地図を広げた。



 トーズの言う通り、西には大きな川があり、その向こう側にはCENTRAL(セントラル)と書かれている。

 向こう側からバズファクトに繋がる橋は、大きな橋が街の中心につながるように一つあるだけのようだ。


「バズファクトは主に北と南で景色が変わります…。

 橋からつながるメインストリートと広場を境に、北はこの記憶屋が位置する地域でもあります。クオリアさんが勤めているバーもありますね。最北端はこの前あなたと行った貧困街があります。


 対して南は、大きな通りが多く、道の整備や建物の配置が規則的になっているのが特徴です。

 そして最南端にはこの街を取り仕切る地主、“ナイト家”の屋敷が存在します。」


「地主?バズファクトはセントラルの管轄なんじゃ?」


「セントラルが今のような大きな都市になる前から、ナイト家はこの土地を領地として管理してきたそうで、いまだに主な街の整備や管理はナイト家が取り仕切っているのです。


 南が綺麗な上流階級の土地であるのに対し、北の貧困街には手を付けようとしないのも彼らです。」


 あっけらかんとした物言いだが、クオリアのような十代半ばの少女がバーで働いているくらいなのだから、()()()()()というのは残酷なことに事実なのだろう。


「まあ実際の街の様子については、調査を始めてみればわかると思いますが。」


「そうだな。まずはアディマンが言っていた菓子屋に行ってみるか。」






「オレが物忘れ症候群にあったときのことだぁ?」


 アディマンが言っていた菓子屋というのは、記憶屋からそう遠くない北地区の2番街と呼ばれる場所にある。

 表には「Patisserie Spin」と書かれた看板が掲げられており、小さいが趣のある店だ。


 店の店主であるスピンというその男は、そんなかわいらしい店の雰囲気とは裏腹にガタイのしっかりした強面の男で、ショーウィンドウ越しの厨房から会話をしながらもお菓子作りの手は止めようとしない、いわゆる頑固おやじというような風貌の男だった。


「ええ、アディマンさんからあなたが物忘れ症候群にあったという話を聞きまして、私たちはとある事情でその事件を調査しているのです。」


「ふん、()()()()()っつったって、どうせ記憶強奪事件についても調べてるからだろ。トーズ。」


 オーブンに菓子を入れ終えたスピンが表情一つ崩さずに言う。

 …いい加減この自分の噂が会う人みんなに知られていることには慣れないといけないんだろうか……。


「教えてもらえないか?まずその物忘れ症候群にあったとき、具体的な日付や場所、状況がわかれば嬉しいんだが…。」


「…。」


 スピンは俺の方に目を向けて、少しばかり黙り込んだ後、作業着のポケットから手帳を取り出した。



「…物忘れ症候群だか何だか知らねーが、おかしな現象にあった日のことは記録してある。


 日付は12月13日木曜日、買い出しのために外に出てそこのノースストリートを歩いてたら、店で働いてるマルに会った。急いで後ろからオレを追いかけて来たようだから何事かと思えば、


『さっきの話だが、明日の金曜日は予定が入っていたことを思い出した。ほかの人をあたってほしい。』と言ってきた。


 オレは何のことかさっぱりわからずそのまま何のことか聞き返したら、ついさっきオレの方から明日のヘルプとして店を手伝ってもらえないか奴に頼んだんだという。

 確かに14日は予約の客も入ってて、忙しくなるからどいつかに頼まねーととは思っていたが、オレはその話をマルにした覚えがねー。マルと会ったのだって、その日はそれが初めてだったはずなんだ。


 その話を厨房の奴らに話したら『そりゃ物忘れ症候群じゃねーか?』って言われて、その話が噂になっちまったんだろう。」



 手帳の開いたページをショーウィンドウの上において、スピンは淀みなく話した。手帳には話の通りのメモがびっしり書かれている。


 確かにこれだけ几帳面な人が、それも自分からついさっき人に頼んだことを忘れるというのは、ただの物忘れにしては不自然なように思える。



「なるほど…、ちなみに、具体的にノースストリートのどの辺で彼と話したのか覚えていますか?

 それと、彼が言った”あなたとついさっき話した”というのは、再びあなたと話すまでにどのくらいの時間があったのでしょう?」


「はじめにオレがマルにヘルプの話を持ち掛けたらしいのが、ノースストリートの帽子屋前。

 次に奴が話を訂正してきたのが、もうノースストリートの東口前だった。正確な時間をマルは覚えていなかったが、普通に歩いていたらその距離なら5分程度だろう。」


 またもやスピンは悩むことなく返答する。几帳面というかどこまで覚えてるんだこの人…。


「ありがとうございます、そこまでわかれば十分です。では、私たちはこれで…。」

「まて、お前ら。」


 話を一通り聞き終えて店を出ようとしたところをスピンが呼び止めた。

 見ると何やらカウンター越しに物を投げて来た。


「うわッ!?」


「もってけ。どうせ捨てるつもりだった試作品だ。」


 キャッチしたのは綺麗にラッピングされたスコーンだった。

 礼を言う前に厨房に戻ってしまったが、最後まで見た目にそぐわない変わった人だった。







 一通り噂をたどって被害者たちの話を聞き終えた俺たちが記憶屋に戻ってきたのは、もうすっかり日が落ちて、街中のガス灯に灯りがともるころだった。


「いやー噂が広がりだしたのがつい最近のことだっていいますから、もっと小規模な事件なのかと思ったら…。」


「全然複雑な事件じゃねーかこれ…。少なくとも俺たちが見つけた被害者だけでも13人もいたぞ?」


 今日一日でほとんど埋まりきった手帳のページをめくりながらため息をつく。自分の事件の犯人に繋がる情報ならいくらでも欲しいと思っていたが、これだけ出てくると逆に憔悴する…。


「疲れたが、今日一日で得た情報をまとめておこう。明日に持ち越したら細かい情報があやふやになりそうだ。」


「ええー本気ですかお客人……。私けっこうもうヘトヘトなんですけど。」


「体力ねぇなおまえ。」

「お客人が体力おばけなんですよぉぉ…。」


 勢いよく椅子に腰かけてうなだれるトーズを横目にテーブルの上にメモを広げる。



 わかった被害者は13人。その誰もが、被害にあったのはノースストリート周辺だという。


 ノースストリートは北地区の中でも様々な商店が立ち並ぶにぎやかな通りで、住宅が多い1番街と2番街をつなぐように東西に伸びている。


 事件がはじまったのはここ一ヶ月。一番はじめが3日で、次に7日、9日、10日に2件、11日、13日、15日、17日に2件、20日、22日、25日。計13件。


 見たところ頻度に大きなばらつきはない。強いて言えば10日と17日に件数が多いのは日曜日だからだろうか。外出する人が増えれば必然的にノースストリートに近づく人も増えるので、当然だろう。


「アディマンは忘れる記憶は過去10分間って言っていたが、被害者によってまちまちだよな。5分以上であることは間違いないが、6、7分の人もいれば10分以上の人もいたぞ?」


「それに、10分以上の記憶がない人は妙な事も言ってましたね~。」


 だらしなく椅子にもたれていたトーズがようやく身を起こしてメモを覗き込んだ。


 10分以上の過去の記憶を失っていた人は、失われた10分間の間に“妙な記憶”があると言っていた。

 ”暗い路地裏”を彷徨っている記憶で、どうしてその路地裏に入ったのかもわからなければ、気が付くとノースストリートの中にいて、路地裏から出て来た時の記憶もない。



「確かに不可解だが、ここでいくら考えていても仕方ないかもな…。明日またノースストリートの調査に行こう。現場を見れば何かわかるかもしれない。」


「そーですねぇ~……。」


「?」


 腑抜けた声に顔を上げてみれば、トーズがテーブルに突っ伏していた。


「おっまえ!?ここで寝るなよ!?せめて自分の部屋に戻れ部屋にッ!!」

「むぅりです~…。もう歩けない、はこんでくださぁい……。」

「だれがやるかッ!!!自分で歩け!!!」




 暖炉の火がパチパチと鳴って、窓には結露の雫がつたっている。

 今夜も冷えるだろうから、さっさとこの馬鹿を部屋に押し込めなくては。

あと2話くらい続きます。お付き合いしてくだされば幸いです。

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