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孤独対策課  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


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【後日談2-5】意地っ張りムニエル

 ムニエルにとって幸いなことに、給料日はちょうどバイトが休みの日だった。


 そのため、午前からイソイソと支度をしたムニエルが、純白のブラウスに、ウエストがキュッとしまった花柄のスカートという、非常に愛らしい格好で家を出る。


 平日で人の少ない町を歩き、ATMで下ろした現金を財布に詰め込んで、大型ショッピングモールの食品館内をウロウロした。


 そして約一時間、時計を気にしつつも、たっぷり迷いながら買い物をすると、最後に花屋に寄って帰宅した。


 家に到着してからも、ムニエルの作業は終わらない。


 茹でた小エビの散る美しいサラダに、ピンクの断面が美しい、花のように盛り付けられたローストビーフなどを、休むことなく、黙々と作り続ける。


 小さなグラタンも二皿、焼いていく。


 あっという間に、リビングのテーブルは豪華な食事でいっぱいになった。


『ご馳走は全て完成しました。花束も買いました。必要な物は全部揃ったわけなのですが、肝心の、私と涼君の準備がまだです。まだ、喧嘩したまんまですから』


 初めに喧嘩を売ったのは関原だが、それを買い続け、翌日以降からは反対に、売り続けていたのはムニエルだ。


 予想以上に喧嘩が長引いた最たる原因が自分であることを、ムニエルは知っていた。


『一度張っちゃった意地の緩ませ方、分かんないです。天使の頃なら、涼君のご機嫌を取るために、いっぱい謝れましたけど、でも、今はもう、嫌です。晩御飯、何日か作れなかっただけで、いっぱい怒る涼君なんて、知りませんし。でも、仲直りはしたいです。私だって、悪い態度をとって悪かったとも思っているんです。できたら、ご飯を作ってあげたかったって、それも本当なんです。また、仲良しに戻りたいのも本当なんです。抱っこもキスもしたいですし、それに……』


 ムニエルは軽くテーブルの上を一瞥すると、小さくため息を吐いた。


『涼君と私のためのご飯、考えていた言葉、プレゼント。全部、仲良しで、素直に大好きって言える時でないと、意味のない物です。本当は、まだ渡せないのに、どうしてもって思って、準備しちゃいましたけど』


 カチコチとなる時計の針が心臓に悪い。


『会いたいけど、会いたくないと言いますか、せめて、私がもう少し素直に涼君とお話しできるようになるまで、待っててほしいです』


 時計には重すぎる願いを込めて短針を睨む。


 しかし、無情にも、関原は普段よりも早くに自宅へ帰ってきた。


 シリンダーキーが回されるガチャガチャとした金属音と、重い扉の開く音、それに、関原の、

「ただいま」

 という声が聞こえて、ムニエルはビクッと肩を跳ね上げさせた。


「お、おかえりなさい、涼君」


 仲直りしたい気持ちはあるから、玄関まで彼を迎えに行ったムニエルが、彼とは目を合わせないままにモソモソと言葉を出す。

 すると、関原はもう一度、「ただいま、ムニエル」と笑って、それから彼女に両手のひらを差し出させた。


「これは、なんですか? 涼君」


 手の上にポスンと乗っかる大きめの真っ白い箱にムニエルが首を傾げる。


「何って、ケーキだよ。ムニエルの好きな。俺が持ち帰る真っ白い紙箱っていったら、大体はケーキなのに、毎度毎度、ムニエルは鈍感だな」


 関原は、そう言って屈託なく笑うと、ポンとムニエルの頭を撫でた。

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