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孤独対策課  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


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【後日談2-4】固結び

 関原は、多分、寂しいだけだった。


 帰ってきてもムニエルが構ってくれないのがつまらなくて、嫌いな孤独が煽られて、満たされない欲求から生じた感情が、「悲しい」から「怒り」に転じてしまっていただけだった。


 イライラを甘えに昇華してムニエルに引っ付くことなんか、到底、無理だったから、言葉や態度を尖らせてしまった。


 ムニエルに、

「寂しくさせてごめんなさい。でも、どうしても眠たくって……もう少し体力がついたら、もっと一緒に過ごせるように頑張りますから。大好きですよ、涼君」

 なんて言ってもらえたら、随分と溜飲も下って、眠っている彼女を見てもさほど怒りを募らせないようになっただろう。


 きっと、夕食も作った。


 関原は、意外と面倒見がいいのだから。


 だが、関原の望む対応は、まるで幼子をあやすようで、人間になったムニエルには容易にできることではなくなっていた。


 加えて、ムニエルはけっこう鈍い。


 関原が怒っている理由を、自分が夕食を作らなかったから、ということ以外に全く見つけられないでいた。


 彼が寂しがっていることなど、見当もついていなかったのだ。


 欲しい言葉を与えて、宥めることができないのならば、せめて、部屋中にイライラを蔓延させたまま眠れば良かったのだろうか、


 そうすれば、争わずに済んだのだろうか。


 しかし、ムニエルはイライラし通しな関原からの喧嘩をガッツリと購入して、更に、喧嘩を売り返してしまった。


 売られたら、その分だけ、関原も喧嘩を購入してしまうから収拾がつかない。


 結局、小さかったソレは激化して大喧嘩となった。


「だいたい、私は、涼君のためにバイトを始めたんです!」


 数度の口論の末、ムニエルは内緒にしようとしていた言葉を口から転がした。


 関原のこめかみに青筋が浮く。


「はぁ!? 俺のため!? 何言ってんだお前! 自分で買いたい物があるって言ってただろ。それが、なんで俺のためになるんだよ!」


「それは……言いたくありません。でも、涼君のためなんです! 涼君のために買いたい物があるんです!」


「だから、俺はそれを……おい! ムニエル!」


 関原が何度呼びかけても、ムニエルはそっぽを向いたまま毛布にくるまって動かない。

 五分後、緩やかに動くようになった布の塊の方へ、関原が向かっていく。


「なんなんだよ、お前、ほんとさ」


 頬に泣き跡をつけたまま、熟睡して眉も動かさないムニエルに関原はため息を吐いた。



 次の日以降、ムニエルはキッチリと家事をこなすようになった。


 朝食も掃除も洗濯も風呂掃除も夕食づくりも、今まで担っていたものを元通りに行うようになった。


 しかし、これらはムニエルがバイトをしながら家事をこなす中で、体力が向上したためにできるようになったことでもなければ、元々サボっていたのを関原に叱られたことが原因で改めたわけでもない。


 実はムニエル、バイトを始めた頃から喧嘩の日まで、二つ目の副作用、睡魔に襲われていたのだ。


 それが、幸か不幸か喧嘩の翌日には治まったことが関係して、彼女は夕食を作れるようになっていた。


 しかし、このことは、関原はおろかムニエルすらも知らない。


 バイトを始めることによって体力が目減りしてしまい、帰宅後、眠りこけるなんてことは、通常の人間にならば誰にでもありうることだから、二人とも副作用の存在に気が付けていなかったのだ。


 そのため、ムニエルの行動は、誰から見ても、あるいは自分で見つめても、

「関原に叱られたくないために、嫌々、家事をこなしている」

 ものとなった。


 お互いに何だか不機嫌なまま、嫌な雰囲気のまま、口数の減った数日を繰り返す。


「いつまで機嫌悪くしてんだよ!」


「怒ってません。疲れただけです。もう、寝ますから」


 そんな会話ばかりの日々が過ぎ、とうとう、ムニエルに給料日がやってきた。

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