【後日談2-3】募るイライラ
「なあ、おい、起きろよ。帰ってきてから、さんざん眠ってたんだろ。起きろってば」
関原がムニエルの体を軽く揺さぶる。
ムニエルは薄く目を開けて関原の姿を目視すると、「んぅ?」と小さな唸り声を上げた。
「んぅ、じゃねーんだけど」
野暮ったく瞼を擦りながら起き上がる姿は、やっぱり可愛らしいが、その分、何故か怒りが募る。
関原はムッツリとしたまま、テーブルの上に乗っかっていたカップ麺を引き寄せ、自分と彼女の前にそれぞれ置くと、「いただきます」と手を合わせて自分の分を啜り始めた。
妙に嫌な空気が蔓延する中、ムニエルもカップ麺を食べ始める。
『久々に食べたジャンクなカップ麺。美味しいけど、でも、あんまり美味しくないです』
正直、さっさと食べ終えて、皿でも洗いに台所へ逃げ込みたくなった。
『まあ、今日は、洗わなきゃいけないお皿はないですが』
眠たい体を引きずって、何とかこなしてしまった家事が恨めしい。
『お風呂にでも入っちゃいましょうか』
「ごちそうさま」を言うと、ムニエルはスープだけが入ったプラスチックの容器を持って、台所へ向かった。
関原を置き去りに、一人、入浴に逃げた。
だが、そういった逃避は一時しのぎにしかならない。
風呂から上がっても関原は酷く不機嫌なままだ。
おまけに、ムニエル自身も全身に異様な眠気をまとったままだったから、思考するのも、言葉を動かすのも面倒になっていて、早く布団に入りたくて仕方がなくなっていた。
「涼君、あの……」
欠伸を噛み殺して、関原の部屋着の裾を引っ張る。
関原はムニエルの方を振り返らなかった。
「なんだよ」
「いえ、そろそろ眠ろうかと思ったのですが、声をかけてからの方が良いかと思いまして」
「ふーん」
頬杖をついてイライラと言葉を出す関原が、何の気なしに酒を煽る。
もう、三本目だ。
少し、肝臓への負担が気になる。
「あの、涼君、あんまり飲み過ぎちゃ駄目ですよ」
座り込む関原の背後にある布団へ潜りこむ途中、ムニエルが心配そうな表情で注意を飛ばすと、彼は一つ舌打ちを打って、それから、コンと空き缶をテーブルに置いた。
小さなはずの音が妙に響いて、ムニエルの背に冷たい汗が流れる。
針で刺されたみたいに、ドギッと心臓が鳴った。
「お前が言えた口かよ。帰ってきて、ぐうたら寝てばっかのムニエルがさ」
言葉には鋭い棘が含まれていて、振り返った目はきつくムニエルを睨んでいる。
「寝てばっかりって、でも、私だって働いて……それに、夕飯、作れなかったのは申し訳なかったですけど、それ以外の家事は大体してるじゃないですか。涼君がお洋服に困っていないのだって、私が朝、仕事に行く前に眠い目を擦って洗濯をしているからなんですよ!」
たじろぎながらも言い返す。
すると、関原はやっぱり舌打ちをして、「そうかよ」と不貞腐れた言葉を出した。




