【後日談2-2】少し前に戻ったみたいだ
明かりを溢さない黒い窓。
カーテンの閉め切られた冷たい部屋。
聞こえない「おかえり」。
『少し前に、戻ったみたいだ。今はもう、ムニエルだって戻ってきてるのに。それなのに……』
関原は帰宅すると、床に転がるムニエルを見て、小さくため息を吐いた。
「ムニエル、なあ、おい、ムニエル。起きろよ」
彼女の肩をユサユサと揺さぶって、目を覚まさせようと試みる。
パッと電気をつけても眉を顰めるばかり。
声をかけても、「んん~?」と呻きのような言葉を溢すばかり。
すっかりムニエルを起こすことを諦めた関原は、何となく台所へ向かうと、パカッと炊飯器の蓋を開けた。
「やっぱり」
中には何も入っていない。
最近、少しだけ増えた独り言を漏らすと、関原は炊飯器の蓋を閉じた。
舌打ちが転げそうになったが、関原はそれを飲み込むと代わりに溜息を吐きだした。
「あれ? 涼君? おかえりなさい。もう、夜でしたか。すみません、これからご飯を」
柔く目元を擦るムニエルが遅れて台所へ入ってきて、トロンと関原を見つめながら、舌ったらずに言葉を出す。
無性にイラっとした関原は、彼女が言葉を出し終える前に、
「いいよ。今日はカップ麺でも食おう」
と、冷たく言い捨てた。
優しく言ってやるつもりだったが、言葉を出すタイミングや固い声、響きが完全に怒った人間のソレで、関原は、ついでにプイッとムニエルから顔も背けた。
面食らったムニエルが一瞬、固まって、辺りには気まずい沈黙が流れる。
関原は無言で電気ポットに水をいれ、スイッチを入れると、それから、ガサガサと棚を漁ってカップ麺を二つ取り出した。
「醤油と味噌、どっちがいい?」
ボソッと独り言を吐くように問いかける。
「私は、味噌で」
「分かった。俺は醬油にする」
何気ない会話だが、雰囲気が重い。
「あの、涼君、私が作りますよ?」
ぬるい水の入った電気ポットの前で仁王立ちする関原に声をかける。
しかし、関原はムニエルの方を見ないまま、
「いい。そんなに手間がかかるもんでもないし。先にリビングでも行ってろ」
と、ぶっきらぼうに言い、今度はカップ麺の蓋を開け始めた。
『涼君、怒ってました。やっぱり、ご飯がすぐに食べられないの、嫌だったんですね。最近、どうしようもなく眠くて、体が動かなくて駄目ですね。悪いことをしてしまいました』
リビングに戻ったムニエルは気まずい雰囲気を引きずったままソワソワとしていたが、ふとした瞬間に昏睡しそうになるほどの眠気を覚えて、気がつけばフローリングの上に横たわっていた。




