【後日談1】 副作用1 食欲
木々の朝露にキラキラとした太陽光の反射が眩しい朝。
関原は目の前に広がる光景に目を丸くしていた。
「ムニエル、お前、朝から食いすぎじゃないか!? 大丈夫か!? 胸やけになったり、胃がもたれたりするぞ!」
リビングまで運ばれた炊飯器と、ムニエルの間を何度も往復するしゃもじを見て、関原が困惑した声を出した。
ちゃかちゃかと器用に箸を使って白米をかき込むムニエルは、関原の声に反応すると、ピタッと止まって彼の方を見た。
しゅんと下がった眉が悲しげだ。
「分かってます。分かってはいるんです。ですが、例の副作用で、食欲が止められなくて! せめてもの抵抗として、お腹に優しそうなお茶漬けを食べているのですが、これ、お米ですから! 炭水化物爆食いな現状が、後を考えると恐ろしいです!」
言い切ると、すぐに白米をかき込み、追加でもう一杯お茶漬けを食べて、ポテンと横に寝ころんだ。
ただ、食事をしただけであるのに、ムニエルはすっかり満身創痍である。
「食ってすぐ寝ると牛になるぞ……って、冗談すら、今はキツイか」
苦笑いを浮かべる関原がムニエルを眺めながらジャケットを羽織る。
彼女は腹を膨らませたまま、ゴロンと寝返りを打った。
「んぅ……お腹、いっぱいです。流石に食欲は落ち着きましたが、苦しい……」
ウゴウゴと蠢くムニエルは顔色を悪くしていて、なかなかに不健康そうだが、何故か立ち上がろうと奮闘している。
最悪、吐いてしまいそうなムニエルの肩を関原がポンと叩いて落ち着かせた。
「なに動こうとしてんだ。大人しく寝ておけ。今日は何もしなくていいから、安静にしてるんだぞ」
「でも、涼君と、もうちょっと一緒にいたい。お見送り、します」
「無理だから止めとけ」
「じゃあ、せめて、早く帰ってきて」
「分かった。だから、本当に大人しくしておけよ」
ポフンと頭を撫でる関原に、ムニエルがコクリと頷く。
その日の夜、関原は普段以上に仕事に没頭して、定時で会社を上がると、帰りに胃薬とゼリー、ところてん、豆腐、こんにゃくなどの、比較的ヘルシーで体にも害を与えなさそうな食材を大量に購入して帰宅した。
太りたくないがために必死で食欲を押さえていたムニエルは、関原の購入物を見ると、少しだけ安心して、すぐに食事をとり始めた。
ムニエルの過剰でヘルシーな食生活は、この後、三日ほど続いたわけなのだが、その後、彼女は、努力してもついてしまった腹の肉とにらめっこをしていた。




