疑いようもない事実
翌日、関原は時間通りに出社して、仕事をしていた。
お昼休憩の時間となり、鞄の中から愛らしい花柄の風呂敷に包まれた弁当箱を取り出す。
弁当箱は二段になっている大きな物だ。
上段には、テリテリの甘辛いタレが美味しそうな豚の生姜焼きと綺麗に焼かれたダシ巻き卵、茹でブロッコリーが、下段にはみっちりと海苔の布団をかけられた白米が詰め込まれている。
ボリューム満点、栄養満点の非常に美味しそうなお弁当だ。
しかし、関原は空腹にもかかわらず、箸すら持たないままで弁当を俯瞰した。
『弁当箱には見覚えがある。新卒の頃に買って、そんで三日と使わなかった品だ。でも、俺がこんな丁寧な弁当を作れるわけがない。やっぱり、アイツは幻覚なんかじゃなくて現に俺の家に居座っていて、それで、信じがたいが『天使様』とやらなんだろうな』
触れもせずにベランダの戸をこじ開けたり、大きくはあるが人間が飛ぶには小さな翼を使って自由に空中浮遊してみたり、なにかと物理法則を無視しがちなムニエルの姿を思い出す。
ムニエルを見たのが昨晩限定であるのならば、アルコールや薬の過剰摂取、酷い風邪などによる幻覚だとも考えられる。
『一過性の幻覚じゃなければ、脳の病気とか、実は俺がいるのが仮想現実の中とか、そういう物騒で壮大な考え方をすれば、やっぱりムニエルは幻覚だってことになるのかもしれないけど、まあ、ないな』
他者が嫌いで一人きりが好きな関原だ。
ムニエルという、得体のしれない他人が自宅に住み着いているという事実をどうしても否定したくて、目が覚める時には彼女が消えていますようにと強く願っていた。
だが、現実にはムニエルは関原の隣で瞳を閉じていて、のんびりと呼吸をしていた。
眠る時のようにふんわりと関原を包み込んだまま彼の隣に横たわって、彼が目覚めたのに気がつけば、すぐに身を起こし、頬や額にキスをしたのだ。
その時の余韻が関原の体には未だに残っていて、ふとした瞬間に彼女を思い出させられ、赤面している。
関原は今朝、気持ちよく目を覚まして何の体調不良も覚えないままにムニエルの姿を目視していた。
加えて、関原は、つい先ほど仕事のミスで休憩時間であるにもかかわらず上司に呼び出されていたわけなのだが、その時、彼の上司は、
「顔に似合わず随分と可愛い弁当を食べるところだったみたいだが、悪いね。少し話があるんだ。私の席まで来てくれ」
と、述べていたのである。
風呂敷は関原が全く買った覚えのない物で、また、彼の趣味を考えても決して持ち得ない物だ。
弁当含め、おそらくムニエルが用意したと思われる風呂敷まで第三者に見えている辺り、彼女は確実に存在しているのだろう。
どんなに存在を疑いたくとも、あるいは、邪魔に思っていても、関原はムニエルが実在している事実を受け入れざるを得なかった。
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