のんびりお昼
帰って来たばかりの時は腑抜けて、酷く甘えていたムニエルだが、数日たって心身が回復すると、元のようにキビキビと家事をするようになった。
本日は、ムニエルが帰ってきてから三度目の休日だ。
人間になった彼女は、関原の社会的立ち位置や人間としての健康的な生活なんかを、あまり気にしなくなっている。
そのため、ムニエルは昼頃に起きてきた彼を見ても、特に注意などを飛ばすことなく、
「おはようございます」
と、笑った。
「おはよう、ムニエル。休日なのに、よく起きて、よく働くよな。オムライス、うまそうだわ」
寝ぼけ眼を擦る関原が、レンジで温め直されたオムライスを見て感心したように言う。
「私の場合、常に家にいますからね。ずっと休日みたいなものですよ。何もしないのも暇ですし。といっても、まあ、涼君の朝ごはんに合わせて早く起きなくていい分、今日は九時ごろに、遅く起きたんですけれどね」
「それでも十分だよ。しかし、ムニエルと暮らしてからは、わりと朝も腹減るようになったな」
「健康で良い事じゃないですか」
「だな。メシ、貰うわ」
「どうぞ~」
席に着いてオムライスを食べ始める関原を、ムニエルはニコニコと笑顔で眺めている。
何度も目が合って、関原は気まずそうにポリポリとこめかみを掻いた。
「ムニエル、あのさ、俺の目、見すぎじゃね?」
「んぇ? ああ、すみません。見蕩れてしまって」
「別に構わないけど、最近、よくそうやってるよな。そんなに俺の目が好きなのか?」
少し揶揄って笑う関原に、恥ずかしそうなムニエルがコクリと頷いた。
「はい。私は、多分、涼君の瞳に惚れてしまったので」
熱に浮かされたムニエルが思い出すのは、初めて関原を見つけた日。
彼を対象者にしようと決めた時のことだ。
「天界で対象者を探して人間界を眺めていた時、ふと、涼君と目が合ったんです。涼君は知らないでしょうが、視線がパチリと合った気がしたんです。涼君の、寂しそうで綺麗な真っ黒い瞳。それを見た時に、私は心臓に太い針が刺さったみたいな衝撃を覚えて、急いで羽をばたつかせて人間界にやって来たんです。涼君の目は、もう、あんまり寂しそうじゃないけれど、代わりに力強くて美しいままで、ふとした時に見ちゃうんです」
真っ黒く変化したムニエルの瞳には、確実に不快恋慕の色が浮かんでいて、ふわりふわりと揺れている。
熱に当てられた関原は恥ずかしそうに耳を赤く染めると、ふいっとムニエルから目を背けた。
「惚れたっていうか、天使の本能の話だろ。それ」
あんまりにも照れてしまって、つい、憎まれ口のような言葉を溢す。
関原の態度がちょっぴり不満なムニエルが、口角を下げた。
「そうですけど、でも、今にして思えば、あの時に大好きになったんだろうなって」
「そうかよ。なんというか、能天気というか、相変わらず、お花畑な考え方してるんだな」
「なんですか、かわいくない反応ですね! でも、かわいいお目目は見たいので、もう少し見せてください、涼君!」
はしゃいだムニエルがギュッと隣の関原に抱き着いて、顔を覗き込む。
戯れてばかりのお昼が、のんびりと過ぎていった。




