関原なりの成果
これに対し、ムニエルを驚かせたり、彼女に少しだけ褒められたりしたかった関原は得意げだ。
「どういうことって、こういうことだよ。けっこう綺麗に使ってるだろ」
フフン! と、ドヤ顔になって、関原はムニエルに台所を見せつけた。
すると、ムニエルは、ガサゴソと冷蔵庫やゴミ箱を漁って、中身を確認し始める。
「冷蔵庫にはちゃんとお野菜が入っていて、自炊の形跡が見られますね。食器は片付けられていて、少なくとも一回分しか溜まっていない。何日も放置しているというわけではないのですね。生ごみはシンク内にありますが、許容範囲内。定期的に回収されているのか、受け皿から溢れているわけでもなければ、変なにおいを発することも無いです。ゴミ箱も溢れてないですね。まさか、涼君、ゴミ出しの日を記憶しているのでしょうか。あの涼君が? あの涼君が……酒量も、別に増えてないです……」
ポソポソと言葉を出しては、ズ~ンと沈んでいく。
ムニエルの性格上、関原の生活力が少しでも上がっていれば、凄いです! と、目を輝かせて褒めちぎってきそうなものだが。
「おい、ムニエル、さっきからどうしたんだよ?」
ムニエルの様子を不審がった関原が、彼女の肩にポンと手を置けば、彼女は彼を振り返って、餌を取り上げられた犬のような、寂しくて、ちょっぴり情けない表情を浮かべた。
「涼君、昨日の晩御飯は何でしたか?」
「え? 晩飯? たしか、八宝菜だな。それを白米にかけて食ったけど。あと、一昨日の残り物の豚肉炒めたやつを食った気がする。みそ汁は……昨日は面倒くさくて作んなかったな。一昨日は食べたけど」
「みそ汁まで!? 作って食べる日があるんですか!? ちゃ、ちゃんと、栄養ありそうなの作って食べてる!! りょ、涼君、次の缶ゴミの日、分かりますか!? あと、可燃ごみの日!」
「可燃ごみは明日、缶ゴミは明後日だろ。曜日的に。分かってるよ、夕飯つくったら生ごみまとめとく。じゃないと、朝に間に合わねーからな」
「ああっ!!」
関原の生活は、特別に優れたものではない。
人によっては、まだまだ不十分だと文句を飛ばしてくる可能性だってありうる。
だが、一人暮らしで働きながら生活をしているにしては頑張っている方であり、ムニエルが派遣されてきた頃を思えば、随分と向上した日々を送っていた。
ムニエルは小綺麗な台所を見てジワジワと精神的を侵されていたのだが、関原の最後の言葉がトドメとなって、小さく悲鳴を上げると床の上に倒れ込んだ。




