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怖気のたつ癒し

「もう、眠るんですか? 食べた後にすぐ眠るのは、消化の関係でよくありませんよ」

 午後九時半を指す時計と布団の中に入り込んで横たわる関原を交互に見て、ムニエルが心配そうに顔を歪める。

 関原は、今日、何度目か分からない舌打ちをした。

「うるせぇな。眠いんだよ。いいから、俺に付きまとうな」

 少しでも動けば、パタパタとエプロンをはためかせて付きまとってくるムニエルが鬱陶しい。

 関原が嫌そうにシッシと手を揺らせば、ムニエルは「ふむ」とだけ呟いた。

「涼君は利かん坊ですねぇ。そんなに怒らなくてもいいのに。ですが、そうですね。涼君は不眠症ぎみで夜が明けても眠れずにいたことが多かったようですし、仮に眠れたとしても睡眠時間はバラバラ。それなら、今日のように『良い子の時間』に眠って、生活リズムを取り戻すのも良いでしょう。むしろ、こんなに早くに眠ろうとするなんて、いい子、いい子です」

 ムニエルが優しく関原の頭を撫でる。

 その柔らかな手を、彼は忌々しそうに頭を振って落とした。

「触るな。気持ち悪いって言ってるだろ」

「あら、そうなんですか? でも、今に気持ちが良くなりますよ。涼君が他者の優しさを受け入れられるようになったら、頭を撫でられるのも、ギュッと抱きしめられるのも、幸せで堪らなくなります。孤独も緩和されて、柔らかい人間になれますよ」

 再び関原の頭を撫でるムニエルが彼の隣にスルリと滑り込む。

 そして、関原と一緒に布団の中で横になると、ムニエルは彼の体をギュッと優しく抱き締めた。

 甘い花のようなにおいを漂わせるムニエルの体は柔らかで、触れ合う肌がピタリと密着し溶け合うような錯覚を覚えさせる。

 関原は体温をカッと挙げると同時に、なんとも言えない不快感を覚えて二の腕に鳥肌を立てた。

「おい、人の話聞いてたか?」

 ガルガルと唸る関原がムニエルを引き剥がそうと、彼女の柔い肩を掴んで押しのける。

 しかし、ムニエルは、

「ええ、聞こえていましたよ」

 と頷くと、腕に力を込めて関原を抱き直し、それから彼の頭を自身の胸元に埋め込んだ。

 関原の耳にムニエルの柔肌が押し当てられる。

「トクン、トクンと聞こえる心臓の音が、まるで子守唄みたいでしょう? せっかく早くに眠ると決めたのに、いつもみたいに泣いてしまって、眠れなくなっては仕方がないですから。貴方が一人きりでも眠れるようになるまで、お手伝いしますよ」

「誰が泣いたって?」

「涼君ですよ。涼君の心の本は嘘をつきません。起こった出来事も、感情も、全て本当のことが載せられています。感情や記憶が乏しければ本は薄くなる。涼君の本にはたくさんのイベントが箇条書きされていましたが、そこに付随する感情はほとんど書かれていませんでした。きっと、どの思い出にも思い入れがないのですね。普段から、人が感じてしかるべきことを感じられないのですね。だから、本が薄っぺらい。寂しかったですね。いい子、いい子」

 一人でペラペラと喋る彼女が勝手に関原を哀れがって何度も頭を撫で、慰める。

 関原はムニエルの態度に酷く腹が立って、彼女を突き飛ばしてやろうと思ったのだが、一撫でされるごとに攻撃性が殺されて、まともに動けなくなった。

「あら、大人しくなってきましたね。涼君は、本当は寂しいだけの良い子ですから、優しくされたら優しさを返せる子なんですよ。ほら、いい子、いい子」

 ムニエルが上機嫌に関原の背中をポンポンと叩き始める。

 柔らかい手つきは母親のようだが、そう称してしまうには、どこか違和感がある。

 太陽のように温かなムニエルは、どこまでいっても人間ではない「何か」を内包していた。

『化け物みたいだ。気持ちわりぃ。気持ちわりぃのに……!』

 ムニエルを警戒していたはずなのに、彼女にあやされていると安心感と強い眠気、癒しを覚えてしまう。

 関原は自分自身に強い恐怖を覚えた。

 だが、せめてもの抵抗にモゾモゾと動いて顔や体の向きを変えようと奮闘しても、ムニエルに額にキスをされて必死に持ち上げていた瞼が落ちてしまった。

 そのまま、関原はゆっくりと夢の世界に落ちていく。

「明日は、もっとお喋りをしましょうか。絵本を読んで、昔話を教えてあげます。たくさん、お話を聞いてあげます。だから、今は眠るんですよ」

 意識が途切れる間際、ムニエルの優しい語りかけが関原の鼓膜を甘く揺さぶった。

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