三ヶ月
ベランダで立ち話を続けるのもいかがなものかと、室内に入った二人は、関原が普段食事等で使っているテーブルの前で並んで座っている。
「懐かしいです~。一緒にご飯を食べたテーブル、寝転がったお布団、この部屋が涼君のお部屋であり、リビングですからね。涼君のお家では、この部屋が一番長くいた場所ですね。ふふ、ふふふ~」
ニマニマと口角を上げ、ご機嫌なムニエルがテーブルにピタッと頬を張り付けて、懐かしさと帰ってくることができた安心感に浸っている。
関原もムニエルの真似をしてテーブルにピタリと頬を張り付けると、彼女の顔を覗き込んで、
「そんなに懐かしいのか? 変な奴だな」
と、笑った。
関原の言葉にムニエルがムッと口角を下げる。
「三か月は長いですよ。そりゃあ、帰ってきたら懐かしいって気分にもなります。涼君には、三か月は長くなかったですか? もっと長く、ずっと、私が帰って来なかったらいいって、思いましたか?」
問うムニエルは、悲しそうに眉を下げて関原の顔を覗き込んでいる。
関原は、フイッとムニエルから顔を背けた。
「涼君……」
ムニエルが曖昧に口を開いて閉じる。
それから、彼女は関原が自分から言葉を発するのを待って、静かに彼を見つめた。
「どうせ、俺のこと見てたんだろ。泣いたんだ。ムニエルの名前、ずっと呼んでたんだ。そしたら、言わなくても分かるだろ。心の本とやらだってあるのに、それなのに、また訓練なのかよ。自分の感情を、自分の口から出すっていうさ。そんなのしなくても、俺は、自分の心くらいわかるようになったよ。寂しかった。悲しかった。ムニエルが恋しかったよ。早く帰ってこいって、そう思いながら、ずっと生活してた」
関原がポツポツと小雨のような言葉を出す。
目に雫は溜めていなかったが、しっとりとした言葉には確かな重量があった。
『寂しい、悲しい、恋しい、ですか。駄目ですね、人間は、私は、こんな言葉で嬉しくなってしまって。きっと、涼君はすごく傷ついたのに、そんな風に想ってくれたことが嬉しくて堪らない。愚かしいです』
奥の方からポカポカと温まってしまった心臓が、そっぽを向き続ける関原の寂しそうな姿を見て、キューっと捻じれるように縮こまって甘くなる。
ムニエルは関原が愛しくて堪らなくなって、彼に抱き着いた。
すると、関原の方もムニエルをギュッと抱きしめて、放さないように強く力を込めた。
「涼君、苦しいですよ」
ガシリと拘束される肩に満更でもないムニエルが、ニヤニヤと口角を上げる。
ムニエルの言葉や拘束の腕をポンと叩く温かい手が拒絶みたいで、関原は余計に力を強めると、ムニエルを自身の胸の中へ押し込んだ。
嬉しそうな口元が胸板で押しつぶされ、鼻呼吸もしにくくなって、ムニエルがモゾモゾと身じろぎをした。
関原にはやっぱり、ムニエルの姿が拒絶的に映った。




