満身創痍の帰還
試練の間は、何人が相手であっても、決して容赦はしない。
それは、物理的、精神的な痛みに耐えきり、完全に人間になれたムニエルに対しても同じことである。
試練を無事、やり遂げたご褒美として、天界や地上までワープさせてくれたりはしないのだ。
ムニエルは満身創痍のまま、重たくて仕方ない体を引きずって梯子をよじ登り、暗闇の穴から天界まで自力で帰ってきた。
地面を鷲掴むムニエルの手を見て、ルーシィがパァッと表情を明るくする。
「あ! あれ! ムニエルじゃないか!? なあ、おい、ローテル!」
興奮するルーシィがバシバシとローテルの肩を叩く。
ローテルは嫌そうに顔をしかめた。
「うるさいですよ、ルーシィさん。見れば分かります。どうやら無事、人間になれたようですね。ですが、あの状態で上まで這い上がるのは、大変でしょうね」
「そうだな。おい、呑気にしてないで引っ張り上げるぞ」
「分かっていますよ。やかましいルーシィさんですねぇ」
ヤレヤレと首を振って、力いっぱいにムニエルを引き上げようとするルーシィに手を貸す。
二人の天使に助けられて、ようやく、花の上で寝転がることができたムニエルは、
「人間、ムニエル、帰還です~」
と、たっぷり息を吐きながら、間の抜けた声を出した。
酷く疲れてはいるが、それでも、確かに呼吸をして柔らかくまぶたを閉じるムニエルに、ルーシィがホッと安堵のため息を吐く。
「良かった。ムニエル、もう、平気なんだな」
「はい。姉さんたちには、ご迷惑とご心配をおかけしました~」
ムニエルは、ゴロンと寝返りを打って、ルーシィたちに柔らかい笑顔を見せる。
ルーシィは、ポンとムニエルの頭を手のひらで覆って、優しく撫でた。
「迷惑とか、そういうのは良いんだよ。ムニエルが元気に生きてるのが一番だ」
ニッと豪快に笑うルーシィの隣で、ローテルも静かに頷く。
「そうですね。あの子は、失敗してしまいましたから。ムニエルちゃんは、ご無事でよかったです」
「何が、人間化を成功させることになるんだろうな。アレックスは回収すら間に合わなかったから、一旦おいておくとしてさ、ムニエルは、何で人になれたんだろうな。壮絶なんだろ? アレ。死んだほうがマシな目に遭わされるってさ、噂じゃん」
「やはり、人になる意思が関係しているのでしょうか。人間に恋をした子とか、対象者の肉親になりたいと本気で思った子たちは、基本的に成功していますから。アレックス君は、人間そのものを大嫌いになっていたようですから、試練の間に放り込んでも、記憶は失ったまま転生したでしょうけれどね」
「まあ、アイツには、それが一番、良かったかもしれないけどな」
苦笑いを浮かべるルーシィにローテルがコクリと頷いた。
昨日、カクヨムにだけ投稿して、なろうには投稿してませんでした……
すみません




