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孤独対策課  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


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72/127

出て来いよ

 必死になってムニエルを探す関原は、隣町まで足を延ばし、家中をひっくり返して彼女の痕跡をたどろうとした。


 だが、初日と同様に、何時間かけても、どれだけ体力を使っても、ムニエル本人はおろか、彼女に関連するものすら、何も見つからない。


 結局、彼の元には、空き巣にでも入られたかのように荒らされた部屋だけが残った。


「そんなに、そんなに、バーベキュー大会の時、俺がお前の言う通りにしなかったのが気に入らなかったのかよ。友達、作んなかったのがさ」


 関原から見て、ムニエルが落ち込んだり、焦ったり、明確に異常をきたし始めたのは、ちょうどバーベキュー大会の話題が出た頃からだ。


 おまけに、それ関連で喧嘩もしていたから、関原はムニエルが自分に酷く怒って愛想をつかしたのだと思った。


「拗ねていなくなるって、お前、それでも天使様かよ。恋ができないような存在なんだろ。人間じゃないんだろ。それなら、愛想なんて尽かすなよ。それとも、俺が一人でも生きていける状態になったって勘違いしたか?」


 誰にも届かない言葉を吐いて、フラフラと冷蔵庫の方へ寄っていく。

 ロングの缶ビールを一本、取り出した。


「いなくなるなら、せめて記憶を消して行けよ。自分で消すって言ってたじゃねえか。何で、俺、ムニエルのこと覚えてるんだよ。消し忘れか? あわてんぼうの天使様だな。消すために、近くに来いよ。ギュって抱っこして、捕まえてやるから。まだ、天使の仕事が終わってないって、俺はまだ孤独だって、嫌ってほど教えてやるからさ」


 プルタブを引いて、一気に中身を煽る。


 一本、二本、三本。


 次々に空き缶が床の上を転がっていく。


 空の胃袋が黄金色の炭酸のみで満たされていく。


 普段、ムニエルがストップをかける量は、とっくに超えていた。


「対象者が精神どころか健康まで害してるの、耐えられるのかよ。なあ、ムニエル、出て来いって! 根比べはやめにしよう。お前がいなくなっても、俺は孤独を満たすためにって他人を求めたりしないよ。出て来いよ! 出て来いって、なあ!!」


 大声を上げて、ガンと缶を壁に投げつけた。


 しかし、寂しくて汚い眺めはやっぱり、残酷なほどに変わらない。


 関原は床にへたり込んで、項垂れた。


「どこ、いったんだよ。なんで、出てったんだよ。何も分かんなきゃ、俺、どうしようもねえじゃねえか。アラーム一回で、起きられるようになってやるよ。スヌーズは、もう使わねえ。ムニエルにだって、起こしてもらわなくても平気になってやる。夕飯くらい、俺が作ってもいい。風呂、自分で洗う。食器だって片付けてやるから、今よりも、少しマシな人間になってやるからさ、帰って来いよ。せめて、どうしたらいいのかくらい、教えてくれよ」


 ポツリ、ポツリ、小雨から豪雨へと変わるような速度で言葉を出す。


 上から目線のソレは懇願と懺悔で、やがて嗚咽にまみれ、聞き取ることができないほどに歪んでいった。


 涙の落ちそうになる頭をブンと横に振る。


 それから、関原は飲めるだけビールを煽って、冷たいフローリングの上で気絶するように眠りこけた。


 瞳を閉じる間際、ムニエルを思わせる優しいそよ風が頬を撫でた気がした。


 もちろん、気のせいだった。

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