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孤独対策課  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


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いたはずなのに

「これ、あげる!」


 高山の存在に気が付かぬ関原へ、己の存在を誇示するように高山が明るい声を出した。


 そうすると、ようやく関山も顔を上げて、高山の方を見る。


「いや、もう、メシも食ったし、飲み物も飲んだんで、大丈夫っす」


 硬く冷たい声で、拒絶するように高山の申し出を断る。


 しかし、ようやく関原に話しかけられた彼女は、どんなに話しかけないでくれオーラを出されても、簡単には彼を諦められないらしい。


 缶コーヒーを彼の方に近づけると、引きつる口角を引き上げて、

「まあ、まあ、そんなに落ち込まないで。コーヒー飲んだら、きっと、気分も明るくなるよ。仕事の失敗だって、気にならなくなるって。リセット、リセット!」

 と、ニッコリ笑顔を作った。


 意図して柔らかい雰囲気を演出しようと必死になる高山とは正反対に、関原は真っ白なこめかみにビキビキと青筋を立てている。


 関原にとって、高山は知り合いですらない。


 そんな彼女が、馴れ馴れしく自分に接してきて、深すぎる傷に素手で触れてこようとしてくるのが、堪らなく腹立たしかった。


『クソ! ムカつくな! 要らねえっつってんだろ! 俺、缶コーヒーはクソマズいから嫌いだし! 大体、落ち込んでる理由に仕事は関係ねえし、そもそも、誰だコイツ! 関係ねえくせに首突っ込んでくんなよ! クソ野郎が!』


 チラッと高山の首から下げられた社員証を見て、彼女の名前を知る。


『高山? まさか、コイツが、ムニエルがどうのこうの言ってた……クソ! 最悪だ! よりにもよって、こんなタイミングで!』


 思わず、舌打ちをしそうになる。


 喧嘩の原因など、高山の知ったことではない。


 彼女が全くもって悪くないことは、関原だって分かっている。


 だが、それでも、彼女に近寄られると余計に腹が立って、関原は高山を視界から消し去りたくなった。


 高山から目線を弁当に戻して、空っぽの箱を包みに入れ直す。


 無口な関原は異様に不機嫌だが、それでも、彼と関りたい高山は口を開いた。


「関原君ってさ、いっつも、お弁当を用意してて偉いよね! それ、自分で作ってるの?」


「違います」


「え!? じゃあ、作ってもらってるってこと!? そ、それって、お母さんとか? それとも、彼女さん?」


 まさか、関原に恋人がいるとは思っていなかっただろう。


 伏し目がちになる高山が心配そうに問いかける。


 関原はフルフルと首を横に振った。


「母親は一緒に住んでないし、彼女もいないです」


 関原の言葉を聞くと、高山はあからさまにホッとした様子で破顔した。


「なんだ! ビックリした。そしたら、お父さんが用意してくれるの? 珍しいね!」


「いや、父親とも一緒には住んでいないです。お弁当を作っているのは……」


 関原は少しの間、開きかけた唇を閉ざして思案した。


 愛しいムニエル。


 自分にとって何よりも大切で、ずっと隣にいて欲しいと願う最愛。


 初めて見つけた、失えない宝物。


 だが、彼女と自分の関係性を示す言葉が何一つ見つからない。


 彼女、恋人、婚約者、妻。


 叶うなら、そんな言葉を使って彼女を説明したかった。


 結局、関原はムニエルを、

「天使」

 と、端的に表現した。


 言葉は聞こえたが、それでも意味が分からなかった高山が、「え?」と、彼に聞き返す。


 関原に問いかけた時、高山は彼の方へ身を乗り出していた。


 彼に、かなり接近していた。


 触れそうになるほど、二人の距離が近づく。


 すると、窓の閉め切られた室内で不自然な突風が高山を襲って、関原から彼女を引き離し、尻もちをつかせた。


「ムニエル!?」


 姿が見えたわけでもなければ、ムニエルの声が聞こえたり、匂いや気配を感じたりしたわけでもない。


 だが、それでも何故か、関原は近くに彼女がいるような気がして、探さずにはいられなくなった。


 大急ぎで窓を解錠し、外へ身を乗り出し、上にも下にも視線を送る。


 しかし、どんなに探しても、ムニエルは見つけられなかった。

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