ボロボロ情緒
関原は、ここ数日で一番、イライラとしながら仕事をこなしていた。
私的な感情を職場に持ち込まないよう、関原なりに気をつけてはいたが、それでも時折、目つきが鋭くなる。
『ムニエルのやつ!!』
昨夜を思い出しても、あるいは今朝を思い出しても、ムニエルを想う限り関原は苛立って、いてもたってもいられなくなってしまう。
八つ当たりをするように、紙パックに刺していたストローをガジッと齧った。
『天使の責務だか何だか知らねーけど、あんな冷たい態度だったくせに、昼食は用意するとか、中途半端に優しさ見せてきやがって! 絶対、諦めねーからな!!』
弁当に入っていた好物の唐揚げを齧って、冷めた白米をかき込む。
昼食は純粋にありがたかったが、きっと、人間だったら見せてくれなかっただろう天使の優しさに、無性に腹が立った。
『クソ……美味い。普通に作られてるから、いつも通り美味い。もしも、ムニエルが喧嘩したら拗ねたままみたいな、怒ったら俺に飯を用意してくれないとか、わけ分かんない嫌がらせ弁当作り出すみたいな、そういう人間みたいな面倒くささがあるやつだったら、もしも、ムニエルが本当に人間だったら、ムニエル、俺に惚れてくれたのかな。そんなのは無理でも、せめて、嫌ったり、してくれたのかな』
気を遣ったり、言葉や態度には注意しなくてはならなかったり、多少、手間がかかってもいいから、ムニエルは同じ人間であってほしかった。
自分との存在としての差異が、どこまでも寂しい。
関原は、熱くなる目頭を押さえた。
『今度は泣きそうとか、情緒ボロボロだな。こんなにボロボロになったのは、しば吉以来か? いや、その後にも、定期的になってたっけ。家に来てからずっと、よくもまあ乱してくれるよ。多分、前は、何となくイライラするだけでおしまいだったのに。良くも悪くも、心なんて動かなかったのにな』
小さく、ため息を吐く。
昼食を完食した関原が、空の弁当を机に放置して、そのまま項垂れた。
落ち込む関原の隣に座り込んで、コトリと机上に缶コーヒーを置いたのは、ニコニコと笑う高山だった。




