繰り返す執念
『苦しくて、辛いです。天使なのに、壊れないはずのお腹が壊れちゃったみたいです。キュルル、キュルルって冷たく疼いて、何にも入っていない中身が、クルクルってかき混ぜられるみたいで、背中にも汗がたらたらで、気持ち悪いです。でも、もっと酷い目に遭ってもいいから、会いたいです。涼君……』
自分で突き放したくせに、ムニエルは関原が恋しくて堪らなかった。
そっぽを向いたまま、ムニエルを惚れさせると宣言して、玄関の扉を閉めた今朝の彼を思い出す。
『絶対に惚れさせる、ですか。涼君らしいですね。健気で、元気で、粘り強くて、好ましい、かわいらしい、涼君。一度だけ、一度だけ、社会の中に在る涼君を見たら、私、諦めがつくでしょうか。自分のいるべき場所で一生懸命に時を過ごす彼を見たら、私、心の中のドロドロを無視して、捨ててあげられるようになるでしょうか』
ムニエルは、彼の閉ざした玄関の先に向かって、ひっそり彼を見たくなった。
かわいそうだからと拾ってやった野鳥を後から空に放って、群れの中で生きられるようになった一羽を眺め、満足するように、あるべき場所で生きる関原を見れば、今度こそ、ようやく、心にも折り合いがつくのではないかと思ったのだ。
『行ってきます、涼君』
ムニエルはパサリと天使の羽を広げると、窓から外へふんわり旅立って行った。
通常以上に抜け落ちて部屋の中に残った天使の羽。
それが何を意味するのか、まだ、ムニエルは知らない。




