洗ってあげましょうか?
「それが、怖いってことなんですよ。涼君は人に優しくされ慣れていませんから。拾われたばかりの野犬のように、虐げられた孤児のように、天使特有の無償の愛に怯えるんです。大丈夫、今に慣れますよ。それにしても、耳すらまともに洗えていないとは、心配になりますね。そうだ! 明日は、私と一緒にお風呂に入りましょうか」
明るい調子でツラツラと言葉を重ねるムニエルが、良いこと思い付いた! とでも言いたげに、突拍子もない提案をする。
当然ながら、彼女の言葉に面食らった関原が、「ハァ!?」と声を挙げた。
しかし、眉をひそめて、あからさまに嫌そうな表情をする関原に対し、ムニエルは自信満々な様子だ。
「大丈夫ですよ。私は仲間内でも子守りの天使と呼ばれている存在。もう、何人もの子供の体を洗い清め、適切で清潔な環境を与えてきましたから。涼君にも、正しいお風呂の入り方を教えてあげます」
「いや、そういう問題じゃなくて」
「大丈夫です! シャンプーハットも、体が痛くならないスポンジも用意できますから。涼君が苦しい思いをすることはありませんよ。むしろ、心地良くて眠ってしまうくらいのはずです! ですから、安心して私に身を委ねてくださいね!」
同じ言語を使用しているはずなのに、ムニエルには、まるで話が通じる気がしない。
人間離れした独善を振りかざし、己を正しいと信じ込んでいる彼女が異様に気持ち悪かった。
「い、嫌だ」
絞り出すように言葉を吐いて、無意識に一歩、後退る。
しかし、関原が離れた分だけ、ムニエルが彼に近づいて微笑んだ。
「なんでですか? かつてないほど綺麗にしてあげますよ」
「いや、だって、恥ずかしいだろ」
「ああ、そういう。大丈夫ですよ。天使は人間に、というか、他者に欲情しませんから。生殖機能がないから、そういう欲が一切ないんです」
「そういう問題じゃないだろ」
関原が「とにかく嫌だ!」と断固拒絶して、そっぽを向けば、ムニエルが「ふむ……」と呟いて何やら考え込み始める。
「なるほど。ここまで抵抗されたのは初めてですね。こういう所が、子どもを相手にするのと成人男性を相手にすることの違いなのでしょうか? それとも、これまで私の対象者になった子たちが、皆いい子だっただけ? 涼君が聞き分けの無い悪い子というだけなのでしょうか?」
関原を眺めながら、ムニエルがコテン、コテンと首を傾げる。
やがて、
「まあ、嫌ならお風呂はもういいです。私としては、涼君が清潔でいてくれれば、それで満足ですから。それよりも、ごはんにしましょう。腕によりをかけて健康な料理を作りましたよ」
という答えに行きつくと、ムニエルは関原の手を引くと食卓まで案内をした。
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