注目の的
『やっぱり、涼君を気にかけてくれている方はいらっしゃったんですね。ふふ、涼君の成長性と根っこの素直さに気が付くとは、吾妻さん、お目が高いです~。素敵です~』
元から柔らかい目元を更に和ませて、嬉しそうにムフフと笑うムニエルはかなり上機嫌だ。
楽しそうに吾妻の周りをクルクルと回ると、それから、訝しげに自分の方を見つめてくる関原へ手を振った。
だが、関原は相変わらずムッとした表情をしていて、眉根にグッと皺を寄せている。
『全く、涼君はいつまでもお肉を焼いてて、仕方のない子なんですから~。こっちに来たらいいのに。吾妻さんが、涼君を、褒めてましたよ~!! そうだ! 涼君に、このことを伝えてあげましょうか!』
ムニエルはタッと駆け出すと、器用に人を避けて少し離れた所にいる関原の元へ向かった。
しかし、走っている途中に耳に入り込んだ、
「え~! 高山さん、関原さんが好きなの!?」
という声を無視できなくて、ムニエルは立ち止まると進路を変え、女性らの方へ向かって行った。
声の方角にたどり着くと、そこには、関原の会社の人間と思わしき数人の女性が小さく円になって、お喋りを楽しんでいた。
「好きっていうか、少し気になるってだけですよ」
高山と呼ばれた女性は、ほんのり頬を染めて恥ずかしそうにはにかんでいる。
そんな彼女の肩を、ショートカットに茶髪の女性がペシンと軽く、じゃれるように叩いた。
「そんなに照れて、好きじゃないってことはないでしょ~。で、どこが好きなの?」
「それ! 私も気になる~! だって、関原君でしょ? あの子は、ちょっと、ねえ……特殊な子だから」
恋バナにのっかった長髪の女性が渋い顔をする。
しかし、高山は嬉しそうに目を細めたまま、照れて柔らかくなった口元を開いた。
「だって、関原さん、なんか格好良くないですか? あんまり物事にも動じないし、無口でクールっていうか~。それに、きっと彼は恋人には優しいタイプですよ~。尽くし系っていうか、家事とか全部やってくれるみたいな!」
「え~? 関原君が~? あの子はどっちかっていうと、亭主関白タイプじゃない? 家事なんか全部、女がやれ、みたいな。まあ、家事やってくれる人に憧れるのは分かるけどさ~」
周囲が苦笑いする中、高山は頬を上気させたまま、テンション高くお喋りを続けている。
近くで彼女らの話を聞いていたムニエルは、キラキラと瞳を輝かせる高山を見て、ただ、
『可愛いですね』
とだけ、思った。
ムニエルの動向が気になるのだろう。
関原は度々、ムニエルの姿を確認している。
高山たちにはムニエルの存在を知ることができないから、彼女らは関原が自分たちを見ているのだと勘違いした。
「ちょっと、関原君、こっち見てるじゃん! もしかして、高山ちゃんのこと見てるんじゃないの!?」
「え!? そうでしょうか! そうかも~!?」
「ねえ、高山さん、関原さんに声かけてみたら? もしかしたら、仲良くなれるかもよ!?」
「えぇ!? どうしようかな。でも、それは、ちょっと……」
いざ、関原と話すとなると恥ずかしいのか、高山はショートカットの女性に促されてもモジモジとしたままで、関原の方を見つめている。
しかし、注目の的となっている関原がずっと睨むように見ているのはムニエルだ。
進展しない高山の恋はそのまま。
やがて、高山を含む女性陣が誰も関原に話しかけることなく、どこかへ行ってしまうのを見て、ムニエルは小さく溜息をついた。




