見守る習慣
「俺の後輩どもは、どうして、こうも生意気な奴らばっかなんだか」
どことなく不貞腐れた雰囲気の里中の姿を確認した吾妻が困ったように頬を掻く。
それから、吾妻は里中の肩にポンと手を置いた。
「まあ、関原は癖のあるやつだからな、お前が嫌がるのも分かる。アイツが先輩で不満に思う気持ちもな。だが、まあ、そんなに邪険にしないでやってくれ。アイツは見かけほど悪い奴じゃない。関原には関原なりの仲間意識があるし、昔から、随分とまじめに仕事をこなすやつだったんだ。几帳面なんだろうな。問題しかない態度は一旦おいておくとして、指導内容そのものは丁寧で漏れも無い。教え方も結構うまいしな。それに、アイツはアイツなりに里中を気にかけてるんだよ。自分では言わないけど、関原はお前のために随分と残業もしているし、他のやつらに頭だって下げてるんだ。あの関原がさ」
宥める吾妻だが、あいにく里中にはあまり効いていないようだ。
どうにも里中、関原に一定の恨みを持っているらしい。
加えて、そもそも関原は彼が好きなタイプの人種でもない。
どちらかというと、苦手な方だ。
そのため、吾妻の話している内容が事実であると知っていても、素直に認め、ありがたがる気持ちになれず、里中は冷たくそっぽを向いてしまった。
「ふ~ん。そんな感じ、全然しないっすけど。でも、吾妻さんって、なんか関原先輩に甘いっすよね。仲良しなんすか?」
口を尖らせる里中が「そうは見えないっすけど」、と余分に一言付け加える。
吾妻は里中の子供っぽさに少々苦笑して、それからクシャリと彼の頭を鷲掴むようにして撫でた。
「そんなにむくれんなって。ま、確かに、仲が良いってわけじゃねえよ、俺と関原は。昔と変わらず、関原は俺に対して不愛想だし。でも、まあ、それでも、俺は結構長い間、アイツの指導役だったからな。今も、お前の指導をする関原を先輩として確認してるわけだから、ある意味、関係性は数年前のまんまだし。そういうのの付き合いで、何となくだな。何となく、アイツのこと構っちまう。そういや、入社したての関原は今よりも不愛想な雰囲気で、生意気で、敬語も使ってるだけって感じの、とにかく可愛くないクソガキだったな。流石に本人には言えねえけどよ」
「ほら~! っていうか、え? 今より?」
「今よりだよ。ああ見えても関原、随分と丸くなってるんだ。ミスも多いし、叱ると不機嫌な表情をするし、とにかく後輩として可愛くなかった。だが、同時に、どこかちょっと憎めない奴だった。いつもは生意気なくせに、叱られて反省して、後から悔しそうに頭を下げる姿が、やけにサマになっててさ。すみませんでしたって謝る声が誰よりも透き通ってて、アイツの尻拭いで残業する俺が『帰れ』って言っても、自分のせいだから先に帰るわけにはいかないって、一緒に職場に残ろうとしてきて。ああ、コイツは不器用だけど誠実なやつなんだなって思った。そんでさ、どこで覚えてきたのか『お疲れさまでした』、『ありがとうございました』って缶コーヒーもってはにかむ姿が、なんか、妙に……なんつうかな、息子みたいな感じだったんだ。実際の俺の子は小さいから、重ねようがないはずなんだけど、それでも、そんな感じがした。まあ、あれだな、迷惑かけられまくったからさ、アイツのこと、見守る習慣ができちまったんだよ、俺は」
正直な話、吾妻は関原に対して悪感情を抱く方が多かったことだろう。
だが、それでも、彼との日々を思い出す吾妻は、どこか妙に懐かしそうで優しい顔をしていた。
そんな彼を、里中は面白くなさそうに眉根を寄せて、ムニエルはニコニコとした笑顔で眺めている。




