関原に関する調査
とはいえ、やっぱり関原はバーベキュー大会が不満で、どうにも胃の底からブクブクと湧きあがる怒りを抑えられそうにない。
『別に、バーベキュー大会に参加することは約束したが、ここで友達つくったり、交流を深めたりすることまでは約束してない。適当に時間潰して、さっさと帰る!』
関原は、少々後ろ向きなやる気を燃やすと、今度は黙々と野菜を焼き始めた。
一方その頃、ムニエルはなかなか動こうとしない関原を見て業を煮やし、酷く焦りながら彼の周囲をウロウロと歩き回っていた。
『ああ! もう! そんなにイライラとしたお顔をして! 幸福もお友達も、何でもかんでも逃げちゃいますよ! そんな表情では。先程だって、せっかく声をかけてくれた後輩さんにも不愛想な態度をとっていましたし!! あれ、無視とか恫喝と同義でしたからね! マズイ。マズイですよ。大会に参加さえすれば、涼君も春の陽気と美味しいご飯につられて、心も柔らかポカポカになって、皆と楽しくお喋りできるようになるかと思っていたのに! このままじゃ、参加させた意味がありません。どうすれば、どうすれば……!』
太陽光に照らされる長く美しい髪をモシャモシャとかき混ぜながら、熱くなる脳を必死でかき混ぜる。
そうしていると、ふと何かをひらめくように、ムニエルの頭に、かつての関原の言葉がよぎった。
『そういえば、涼君は定期的に、俺は誰にも好かれていない、俺は人に話しかけるだけで迷惑になる、関わりたくない、なんて言ってましたね。もしも涼君が、ご自身で思うほど周囲に嫌われていないと知ったら、涼君も少しは周りと仲良くしたいと思ってくれるようになるでしょうか?』
少なくとも、今のまま関原に声をかけ続けるよりは、周囲を観察しに行く方が、まだ建設的だろう。
『涼君、ちょっと周りを見てきますね』
ムニエルはカボチャをじっくりと焼いている関原に声をかけると、それから、彼女は彼の元を離れて談笑している男女の元へと向かって行った。
数十分後、全体の会話をザックリと盗み聞ぎしたムニエルは、相変わらず浮かない顔をしている。
『むぅ。そもそも、涼君の話をしている人自体、いませんね。涼君、存在感ないんでしょうか?』
好きの反対は嫌いではなく無関心。
嫌われているのも問題だが、だからといって誰からも注目を浴びていないのも、それはそれで大きな問題なのではないだろうか。
ムニエルは、背中にタラリと冷たい汗を流した。
『困りましたよ。嫌われちゃったり、誤解されちゃったりしてるだけなら、涼君にそれを伝えて、名誉挽回、己のイメージ改善のために他者と交流を持たせるよう、働きかけることもできるのです。ですが、まるっきり関心がないとなると……こんなこと伝えては、涼君も、きっと不貞腐れて、やる気なくしちゃうでしょうし』
実のところ、周囲に気に掛けられていても、嫌われていても、あるいは無関心を投げかけられていても、関原は断固として周りと交流を持つつもりはない。
しかし、ムニエルの方は、周囲が関原に対して何か一つでも感情を持っていれば、彼が動いてくれると信じている。
そのため、彼女は諦めずに二週目に繰り出すと、ふと耳に入り込んできた関原の後輩の、
「マジで勘弁してほしいんすよ、あの人」
という言葉を、しっかり捕まえた。




