苛立ちバーベキュー
季節は春。
各地で盛んにお花見が行われる時期だ。
花より団子とはよく言ったもので、満開の桜の木の下で肉を焼く彼らは、香ばしく食欲をそそる匂いに夢中で少しも花など見ていないだろう。
夏すらも思わせる晴天の日、関原とムニエルは彼の会社のバーベキュー大会に参加していた。
「ねえ、涼君。皆、楽しくお喋りしてますよ。涼君も、あそこに混ざりましょう。お友達、作りましょうよ」
数台あるバーベキューコンロの内、一台の端っこを陣取って黙々と肉を焼き続ける関原に、オロオロと心配そうな表情のムニエルが声をかける。
その姿はさながら、お友達グループにうまく入り込めず教室の隅っこでポツンと一人、積み木遊びをする子どもを心配する幼稚園の先生のようだった。
『うるせぇな。俺は社内には友達つくんねえって言ってんだろうが。うるせえし、めんどくせえし、そもそも興味ねーんだよ。だいたい、こういうとこで喋ってんのは、そもそも、元からお友達のやつばっかだ。ここは友達作りをする場じゃない。すでに友達になってる奴が更に交友を深めたり、友達経由で知り合い増やしたりして交流の輪を広げる場所なんだよ。そんなところに俺が入り込めるか、このバカ!』
ムニエルの姿は相変わらず関原にしか見えていない。
そのため、怒りをあらわに彼女へ文句を飛ばしたり、舌打ちをしたりしては周囲に不審がられてしまう。
関原は彼女への強い苛立ちをゴクリと飲み込むと、そのまま不機嫌な表情で黙々と肉を焼き進めた。
『クソッ! マジでつまんねー。こういう肉、食っていいタイミングもよく分かんねーし。つーか、別に親しくもねえ、興味ねえ連中とへらへらしながらメシ食っても、不味いだけだし。これなら家で一人焼き肉用のコンロ引っ張り出して、そんで、酒でも飲みながらムニエルと肉食ってる方がずっといいじゃねーか。だいたい、俺は、こういう業務外の付き合いは嫌いなんだよ。俺の貴重な休みを、こんなくだらないことに!!』
ただでさえ苛立っているというのに、自身の周りでウロチョロと動き回り、
「ほら、涼君。笑顔、笑顔! 涼君は人好きのする可愛い笑みを浮かべられるんですから、ニコニコしましょ。あそこの後輩さんらしき人が、関原君に話しかけたいよ~って顔してますよ」
と、声をかけてくるムニエルには酷く神経を逆なでさせられる。
『あれは、俺が先輩だから肉焼き係を代わるか迷って、こっち見てくれてんだよ。勘違いするな、この阿保! マジで、マジで約束のこと覚えとけよ! この、馬鹿ムニエル!!』
イライラとする関原は怒りを口から吐き出す代わりに、大きな肉塊を豪快に網の上に乗せた。




