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怖くない、怖くない

「おかえりなさい。長風呂でしたね。どうでしたか? お風呂は気持ち良かったですか?」

 真っ白いシルク生地のワンピースの上から、控えめにフリルの付いた純白なサテン生地のエプロンをかけるムニエルが、タタッと関原の元へ歩み寄って微笑む。

 ムニエルからは、味噌やダシの温かくて美味しそうな香りが漂っていた。

 彼女の勢いにおされて、関原関原(せきはら)が困惑がちに「ま、まあ」と頷く。

 すると、ムニエルは嬉しそうに「そうでしょう」と笑った。

「お風呂は一見すると面倒に見えますし、入り方によっては本当に疲れてしまうこともありますが、それでも一日の疲れを取ってストレスを緩和する大切な行為ですからね。これからも、できる限り入るようにしましょう。ところで、涼君、髪が濡れていますよ。乾かさなかったんですか?」

 未だに水が滴って、肩に引っ掛けられたハンドタオルを濡らす真っ黒な髪の先を見つめ、ムニエルが首を傾げる。

 なんだか咎められている気がして、関原は彼女からフイッと目を逸らした。

「まあ、短いから、ドライヤーを使うまでも無いと思って」

 モゴモゴと口を動かし、言い訳のように言葉を並べる。

 ムニエルが、「ふむ」と呟いて関原を眺める。

 それから、彼女は背中から生えた翼で少し飛翔すると関原の頭の上まで浮かび上がり、彼のタオルを奪って優しく髪の先や頭を拭いた。

「タオルドライのみにするにしても、もう少し拭きましょうか。涼君は髪が短いというわりに、そこまで短くないですから。きっと、床屋さんや美容院に行くのが面倒くさくてギリギリまで放置していたんでしょう。中途半端に伸びています。髪型は自由ですが、少しは整えた方が、お友達ができやすくなりますよ」

 加えてムニエルは、現在の季節は冬だから、短くても感染症を予防するために髪を拭く方がいいとも述べていた。

「おい! いいって、やめろって!」

 少しの間は黙って耐えていた関原だが、段々に懇切丁寧に髪を拭かれているのが恥ずかしくて、いたたまれなくて仕方がなくて、大きな声を挙げる。

 しかし、ムニエルは無視して彼の髪を拭き続けた。

「暴れない、暴れない。ムニエルお姉ちゃんは貴方の為の天使様ですから、決して貴方に攻撃を加えることはありませんよ。ですから、安心して、私に体を委ねてくださいね」

 ムニエルの態度は、まるで癇癪持ちの子供をあやすようだ。

 眠たくなるような心地よい声で言葉を重ねて、聖母のように慈愛に満ちた笑顔を浮かべた。

「なっ! 俺は別に……!」

 お前が怖いわけじゃない、ただ、鬱陶しいんだ。

 そう、言い返してやろうと思っていたのに、髪を拭き終わったタオルで耳まで丁寧に拭かれて、関原はビクッと肩を跳ね上げた。

「やっぱり、あまり入浴する習慣がなかったからでしょうか。それとも、涼君が男の子だからでしょうか。体の洗い方が甘いですよ~。ちゃんと、耳まで掃除しましょうね」

 真っ赤に染まる耳元で、ムニエルが囁くようにして助言を与える。

 耳や背がゾワゾワとして仕方がなくなった関原が、虫を追い払うようにブンと手を振る。

 ムニエルはヒラリと彼の手を避けると、音もなくフローリングに着地した。

「怖くない、怖くない」

 関原の頭を撫でるムニエルが甘く、優しく、言葉を重ねる。

「別に怖くないって言ってんだろ。ただ、ゾワゾワして気もちわりぃ」

 吐き捨てるように言って、ムニエルをきつく睨みつける。

 しかし、ムニエルは相変わらずの優しい笑顔を浮かべていた。

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