抱っこ
「な、何お前! 可愛くなったから、やっぱ抱っこすることにしたのか!? どういう神経して……! ま、まあ、いいや。言ったな、俺のこと可愛いから抱っこしたいって。お前の言う抱っこって、さっきまでのやつだもんな」
念を押すように威圧して問いかければ、ムニエルが照れたまま小さく頷く。
関原はムニエルの方に向き直ると彼女にキュッと抱き着いて、少し前のように柔らかな胸に顔を埋めた。
そして、そのまま頭をグリグリと左右に振って、幼い子どものように柔らかさの中に顔全体を埋め込んでいった。
「涼君?」
関原の行動が少し不思議で、けれど、どうしようもなく愛しくて、柔く問いかけながら彼の頭を撫でる。
すると、関原がムニエルの胸に顔を埋めたまま、少しだけ顎を動かして上を向き、彼女の目を覗き込んだ。
「なんだよ。やっぱりキモいからって離れるのか? お前が可愛いとかほざいて、さっさと寝るつもりだった俺にすり寄って来たくせに。このくらい、ちょっとくらい甘えたっていいだろ」
先手を打つように言葉を出す関原は不機嫌で多少の攻撃性をはらんでいるが、それでも目つきはいじけていて、酷く寂しそうだった。
関原の瞳を覗き返した瞬間、ムニエルの心臓がキュンと甘酸っぱく疼いて、彼女は半衝動的に何度も激しく首を縦に振った。
「お前、そんなにいじけてる俺が好きなの?」
ムニエルがあんまりにも分かりやすく、熱心に首を振るから、関原は呆れて苦笑いを浮かべた。
彼の言葉にハッとした様子のムニエルが、恥ずかしそうに下を向いて「はい」と小さく声を出す。
「いじけるの、アリだな」
クツクツと嬉しそうに笑う関原が、少し意地悪っぽく言葉を出した。
ギョッと目を見開くムニエルが、
「わざとですか!? なしですよ! ダメです!」
と、ブンブン首を横に振る。
こんなにも慌てているのは、自分に対して関原のそれが効果てきめんだという自覚があるからだろう。
仮に関原がわざといじけていると知っていても、ムニエルは彼を放っておけない。
「俺、このまま寝るから。一度自分から抱き締めた以上、今夜は離れんなよ。嫌がるのも無しだ」
機嫌のいい関原がモゾモゾと動いてムニエルの胸の中に戻っていく。
ムニエルも関原の頭を愛おしそうに撫でて、それから自分より大きな彼の体をキュッと抱き締め直した。
気持ちが良さそうに目を細める関原が、リラックスしたように全身を脱力させる。
関原はゆっくり、幸せな眠りに落ちていった。




