きたない子
「お前さ、流石に俺に愛想尽かしただろ。こんな気持ち悪くてきたねえ奴、面倒見たくねぇってさ」
ムニエルに抱き着いたまま深呼吸を繰り返していた関原が、ポツリといじけたように言葉を出す。
「別に、そんなこと思ってないですけど」
「嘘つくなよ。俺だって、自分で自分が気色悪いと思うし。人間の感覚を持たない美しい天使様の異様な優しさにつけこんで、こんな風にして。でもさ、俺、実はガキの頃の方がもっと汚くて、気持ちが悪くて、最低なやつだったんだよ」
「そんなわけないですよ。子どもは皆かわいくて、綺麗で、尊いものなんですから。かわいい涼君の子どもの頃。きっと、かわいくて、かわいくて堪らなかったはずですよ!」
「違う。だって俺、小さかった頃、犯罪とか悪い事とか、そういうの、分かってんだかどうだかも曖昧な本当に幼かった頃、窃盗したことあるんだよ。大人が花見でたむろしてたとこからさ、お菓子を一個、盗んだんだ。でも、誰にも気がつかれなかった。皆、酔ってはしゃいで、小汚いネズミなんて視界にも入れてなかったからな。叱られる、叱られない以前の話だったよ。ホッとした反面、すごくガッカリした」
ムニエルは、関原が幼い頃に起こした罪の存在を知っていた。
本に記載されていたからだ。
だが、ムニエルはその事実をあまり重要視していなかった。
関原が悪戯を繰り返していたのは、せいぜい小学校低学年までで、成人した今となっては犯罪と全く縁のない生活を送っていたからだ。
そのため、ムニエルは幼い頃のソレを咎める気すらなかった。
しかし、関原の態度があんまりにも寂しそうで、咎められることを望んでいるような、同時に叱られることに怯えているような複雑な様子だったから、ムニエルはどうしたらよいのか分からなくなって固まってしまった。
ムニエルの様子を眺める関原が渇いた笑みを浮かべて、彼女の清い体をまさぐる。
滑らかな線をくすぐるようになぞり、柔らかさを弄ぶような手つきは酷く欲情していた。
ギョッとしたムニエルが身を引き、自身から離れていくのを、関原は引き止めなかった。
「ほらな、離れた。気持ち悪いって思ったんだろ。ベタベタ触って、甘えて汚いって。でもな、もしも俺がガキだったら、お前が可愛くて綺麗で尊いものだって信じ込んでるガキの頃の俺だったら、もっと酷かったよ。きっと直接、ここを吸ってたからな。お前が母性丸出しで振舞ってくるのにつけこんで、『ちょうだい、ちょうだい、おっぱいちょうだい、ママ』ってさ、強請って甘えたよ」
吐き捨てるように言う関原が立てた指先で、ちょんと柔らかい胸を押す。
驚いたムニエルが顔を真っ赤にして狼狽え、「ふぇっ!?」と変な悲鳴を上げた。
ムニエルの表情を覗き込む関原が、挑発するようにイヤらしく口角を持ち上げる。




