自己流の慰め
どこか苦しげで寂しそうな表情の関原が、黙りこくったままムニエルから本を取り上げる。
「あ! コラ! 涼君!」
少し目を吊り上げたムニエルが鋭く関原を叱るが、彼はどこ吹く風でパラパラと紙面を捲っている。
中身は未知の文字で埋め尽くされていて、関原には読めなかった。
「何だこれ? 天使文字的なやつか? まあ、別に読めなくてもいいけどな。内容に興味ないし。なあ、ムニエル、お前さ、こんなの読む必要ねえよ。俺がさっきお前を噛んだのは……ただムカついたからだし」
そっぽを向いて苛立った言葉を出す関原は、少しいじけている。
反面、ムニエルは関原の言葉に指導の希望を見出し、パァッと目を輝かせた。
「それなら、良くないけど良かったです! ですが、やっぱり、イライラしたからと言って人に暴力を振るうのはいけないことですよ」
ビシッと人差し指を立てるムニエルは、すっかりいつもの調子を取り戻したらしい。
普段通り、元気に関原を叱っている。
これに対し、関原は意外ともいえるほどしおらしい態度を見せると「悪かった」と、素直に謝罪した。
拍子抜けしたムニエルがキョトンと首を傾げる。
「あれ? 今日はいつもよりも素直ですね」
「まあな。俺も、たまにはちゃんと謝るんだよ。急に噛んだこと、反省した。だから、ほっぺ出せ、ムニエル」
「え? ほっぺ? 別に謝罪さえいただければそれでいいのですが。でも、分かりました。はい、涼君。どうぞ?」
腑に落ちない表情のムニエルが無垢な様子で頬を差し出す。
ムニエルの肌は真っ白で柔らかく、美しいが、関原が噛んだ部分だけ、ほんの少し赤くなっていた。
関原は、そこを愛おしそうに舐めた。
「涼君!? いったい、何をするんですか!」
ギョッとしたムニエルが勢いよく体をのけ反らせる。
一瞬で真っ赤に染まる耳を見て、関原は悪戯の成功した子供のような笑みを浮かべた。
「何って、俺なりに慰めたんだよ。ちょっぴり痛かっただろうからさ、ごめんな、舐めて治してやるからな、ってさ」
クスクスと上機嫌に笑う関原が楽しそうに舌なめずりをする。
それを見たムニエルの頬や目元が、カッと真っ赤に染まった。
「痛いの痛いの飛んでけ! ってことですか!? 治し方がワイルドすぎますよ! 大体、私は天使だから怪我しにくいですし、損傷してもすぐに治るので、そういうお気遣いは無用ですよ!」
「そうか?」
「そうですよ!」
バクバクと鳴り散らす心臓を押さえつけ、火照る頬をパタパタと手で仰ぐムニエルはとても冷静ではない。
ムニエルが取り乱せば取り乱すほど、ますます、関原は機嫌を良くしていった。




