レベッカちゃん
以前、ムニエルの姉であるルーシィやローテルが話していた通り、ムニエルはかなり人間寄りの天使だ。
彼女たちでは涙を流さないどころか、眉すらもひそめぬような映画を見てボロボロと涙を溢している。
「レベッカちゃん、お母さんたちの所に帰れて良かったです~!」
エンディングで自身の両親に抱き着き、大泣きしながら笑っている幼い外国人の子供を見て、ムニエルが感極まったように言う。
手に持っているハンカチはぐっしょりと濡れていて、彼女の隣にあるゴミ箱には丸められたティッシュがいくつも投げ込まれていた。
同じように多少、涙ぐんではいたものの、ムニエルほどは感動していなかった関原が少し引いて苦笑いを浮かべる。
「良かったは良かったけどよ、そんなに感動したのか?」
「はい! 子どもの成長する姿はいいですね。たとえフィクションだったとしても、感動します。やはり、子どもは大切に守り、育んでいくべきですね」
グッと握りこぶしを作るムニエルは真剣な表情をしている。
「お前は子ども好きだよな」
「ええ。好きですよ。幼いが故に純粋で、無邪気で、残酷で、何者にも成りえる可能性を秘めている。身の回りの全てを吸収し、学びゆくが故に環境に左右されるという、危なっかしい一面を持っている彼らを守り、適切に育み、導くことこそが天使として課せられた己の役割だと実感しています」
白銀の瞳に強く美しい決意を宿らせて、凛と語る。
その姿を関原が眩しいような、複雑なような表情で眺めて曖昧に口角を上げた。
「なんつーか、まあ、天使らしいことだな。天使の連中は、皆そんな感じなのか?」
「救済欲求とか、熱意は皆さん似たような感じだと思いますよ。ただ、対象とか、そこに対する細かな想いとか、そういうのは全然違いますけれどね。ルーシィ姉さん、私の先輩の天使はカリカリに痩せた内気な性格の成人男性を、他の先輩は自傷を繰り返す内弁慶の気分屋さんな女性の面倒を見ています。それぞれ、助けたいと思う理由があるみたいですよ。私が子どもを好むように、天使には、それぞれ救済対象への好みがあるんです。けっこうえり好みが激しくて、いてもたってもいられなくなるほどの救済感情を抱くのは、対象者にだけなんですよ」
涙の痕が残る頬を上気させ、天使について語るムニエルはどこか嬉しげだ。
自身について関原に興味を持ってもらえたことや、誇りを持って行っている職務について話すのが楽しいのかもしれない。
ムニエルの姿を見ていて、関原は一つ疑問を持った。




